弱みにつけこむ

くく←にょ竹←鉢

○弱みにつけこむ

報われないとわかっているのに、どうしても捨てきれない想いがある。それは俺だけじゃなくて、俺が想いを寄せるあいつもそうだ。学年一の秀才と言われる女顔のイケメンのことが好きで、先週の半ばにはらしくもなくファション雑誌を買っていた。ボサボサの髪を少しでも何とかしようと、年上の後輩にアドバイスをもらって頑張り始めたのも記憶に新しい。だけどあいつの想い人には・・・・

「また豆腐に負けたぁ」
「今度は何があった?」

豆腐しか愛せないと言う困った性癖があった。

「昨日デートしたの」

どうして登校して早々、朝っぱらに好きなやつから別の男の愚痴を聞かなければならないのか。雷蔵は図書室に本を借りに行っている。

「映画観に行ったんだけど、それがほのぼの家族ものでさ、夕御飯をみんなで食べてるシーンで・・・・」
「豆腐が出てきたんだな」
「そう、冷やっこ」

惚れた弱味とでも言おうか。こいつのことは何でも知っているという優越感に浸りたい想いもあるし、やはり聞いて聞いてと俺のところに毎回来るこいつが可愛くて、俺はどうしても拒絶できない。それも、まだ竹谷と久々知が付き合っていないから聞いていられるのだ。

「映画の後にカフェ行ってそこで感想言い合おうねって話だったのに、冷やっこが食べたくなったからって定食屋に変更になって、映画の感想じゃなくて豆腐がいかに素晴らしいかをくどくどと説明された」
「御愁傷様」
「まぁ、豆腐の話は耳にタコができるくらい聞いてて正直うんざりだけど、なんか兵助、生き生きしてて可愛いんだよな」

頬を染めてくすりと笑う。恋をしている顔だ。よく小説やドラマに登場する好きな人がいる人に恋をするキャラは、大抵告白して振られたあとに『自分はあいつに惚れてる君が好きだったんだよ』と言って諦めるが、告白する勇気すらない俺にはそんな綺麗な台詞、とても言えそうになかった。その笑顔を俺に向けてほしいと思う。俺を想ってほしいと思う。竹谷を俺のものにしたいと思う。

「三郎、いつも愚痴聞かせてばっかでごめんな」
「いや」
「全然望みなくて落ち込んでも、三郎が励ましてくれるから本当に感謝してる」
「気にすんなよ」
「クールだなぁ」
「まぁな」
「だけどそれも今日で最後だ」

え・・・・?俺は耳を疑った。それは、どういうことなんだ。

「今日の放課後、兵助に告白しようと思ってんだ」
「そ、うか・・・・」
「うん、そんできっぱりフラれてくるよ」

放課後、雷蔵は読み終わった本を返すために図書室に行った。俺は一人で教室に居残っている。竹谷は久々知のところに行った。告白するというのは本気だったらしく、休み時間の度にどんな告白がいいかと相談された。自分の想いにケリをつけようとする竹谷は偉い。どんなに彼女を欲していても、想いを伝えて仲を拗らせるリスクを恐がって愚痴を聞くいい友達ポジションに甘んじていた俺とは違う。俺も前に進まなければ。

「もしハチと兵助が付き合うことになったら俺は諦める。ハチが兵助にフラれたら・・・・」

その弱みにつけこんでもいいだろうか。なんて、男らしくないな俺。そんなことを考えていたら、竹谷が教室に戻ってきた。

「三郎」

俺がまだ教室にいることに驚いているようだった。

「ちょうどよかった。最後の愚痴、聞いてくれるか?」
「・・・・あぁ」
「やっぱりフラれちゃったよ」

弱々しく笑った。どうしてこんなときにも笑うんだ。残念だが俺には、いままでお前の愚痴を誰よりも聞いてきた自負がある。

「笑うなよ。せめて俺の前でだけでは無理すんな」
「・・・・」
「だから好きなだけ愚痴ればいい」
「・・・・あり、がとう」

それから竹谷は大泣きした。ぼろぼろと大粒の涙を流しながら、豆腐みたいに真っ白な肌だったら久々知も少しは意識してくれただろうかとか、肌が白くなくてもメイクができていたらとか、もっとおしゃれだったらよかったかもだなんて言う。漸く竹谷が泣き止んだのは最終下校時刻の直前だった。

「俺、決めた。もっと綺麗になる!なんてフラれたあとに言うとかドラマの見すぎか?」
「いや、良いと思うよ。それがまた次に繋がるから」
「そっか」
「でもお前さ、肌の手入れとかちゃんと出来るのか?メイクのやり方も、服の選び方もわからないだろう」
「うっ・・・・まぁ、うん。それはおいおい」
「じゃあさ」

俺も決めたよ。全然男らしくないけど、竹谷の隣に少しでもいたいから・・・・

「そういうのそれなりに詳しいから、俺が教えてやろうか」
「三郎が?」

あー三郎に教わるなら気ぃ張る必要ないからいいかも、と言う竹谷の手に触れて目を見つめる。

「俺がお前を綺麗にしてやるよ」

おわり

ぐだぐだしてるだけ。

2012.6/11

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