師からの指令



○師からの指令


滝夜叉丸ら三人の師匠は超売れっ子陰陽師である。そんな彼の腕を頼って、近隣の村々や山を越えた先にある里からも依頼が来るほどだ。師匠はその依頼を受けて全国各地を渡り歩くのでほとんど屋敷には帰ってこない。屋敷に寄せられた依頼書は、式神を使って彼の優秀な三人の弟子たちが彼の元へと運ばせるのだ。つい昨日もまた、同じ町に住むとある金持ちから依頼が来ていたので、滝夜叉丸が師匠の元へと式神を飛ばしたのだが・・・・

「滝夜叉丸、喜八郎、先生から文が来たぞ」
「そうか。先生はいつ頃お帰りになると?」
「それが・・・・帰ってこれないそうだ」
「何だと?」

三木ヱ門が持ってきた手紙の内容はこうだ。

『美しき弟子たちへ

依頼書を見き。
早く帰りて依頼主たちの助けにならまほきが、私はいま帰るが出来ず。
一昨日訪ねし先で事件に巻き込まれ、身動きがとれず。
なれば、私に代はりてお前たちが三人で以下の依頼をなんとかしてみたまへ。

遠き地にゐる師より』

以下の依頼とは、この町の金持ちから来た依頼のことであった。そんな御方の依頼を、見習いの身である自分たちが師に代わり受けてもいいものか。滝夜叉丸と三木ヱ門は躊躇した。

「大川様は先生を頼っていらっしゃるのに」
「しかも大事な孫娘にとりついたあやかしを祓えと言う依頼だ」
「たとえ私がこんなに才溢れて眉目麗しくても、まだ見習いの我々が行ったらひどく落胆なさることだろう」
「そうだな、私の美しさで大川様をお慰めすることしかできない」
「じゃあ先生の命に逆らうの?」
「それは・・・・」
「逆らうわけにはいかないけど・・・・」

話し合いの末、三人はとりあえず事情を話しに大川様を訪ねることに決めた。屋敷から大川邸まで歩く。およそ30分ほどで大きな門の正面にたどり着いた。

「ここか」
「でかいな」

門番にここへ来た理由を伝えようとしたその時、滝夜叉丸の袖が引かれた。振り返ると、そこには狩衣を纏った一人の少年がいた。

「なっ、お前は誰だ!?」
「次屋三之助」
「次屋?」

少年は聞きたいことがある、と切り出した。

「賭博場はこの辺りだったはずだけど無くなったのか?」
「は?賭博場はもっと東だ。元々この辺りには無い」
「そうなんだ」

つかんでいた滝夜叉丸の袖を離して、礼も言わずに立ち去る。

「何なんだいまのガキは」
「僕らとあまり変わらなそうだけどね」
「それより早く行くぞ!」

門番は、師匠の名代として来た三人をすんなり中へ入れた。そのまま大川家当主、大川平次渦正の自室に通される。師匠が遠い地で足止めをくらっていること、代わりに弟子である三人が孫娘の様子を見ることを伝えると、とにかく見てくれと孫娘の部屋に案内された。

「ここじゃ」
「こ、これは!」

三人はまだ見習いながら、襖の隙間から流れ出る悪い気がよく見えた。結構濃い。

「お嬢さんから引き離してとっとと祓ってしまおう」
「ああ!」

まず最初に動いたのは三木ヱ門だ。臨兵闘者皆陳裂在前と九字を切る。これはあやかしに対して攻撃を仕掛けるための準備にあたる行いだが、これによってある程度力のあるあやかしは怒って飛び出してくることがあるのだ。案の定、大川家の孫娘にとり憑いていたあやかしが出てきて三木ヱ門に襲いかかる。

「喜八郎!」
「了解」

次に喜八郎と滝夜叉丸が三木ヱ門の前に出て、防御の印を結んだ。ドンッ、あやかしは跳ね返ったが、強い衝撃に防御壁も崩れる。

「くっ!」
「あのあやかしは・・・・群雲鼬!?」
「なぜ単体で人にとり憑いているのだ!」

群雲鼬は、本来群れで行動する。攻撃的で警戒心が強く、あまり人里には下りてこないため、人に憑くのはまれだ。

「と、とにかくやるぞ」
「やつを三人で囲んで祓おう」
「わかった」

バラけて周りに回ろうとするが、暴れまわる群雲鼬の攻撃を避けるだけでやっとだった。隙がなく、足止めできる術をかけることができない。実は滝夜叉丸たち三人は、まだ小物のあやかししか祓ったことがないのだ。勝手がわからず苦戦している。一瞬でも動きが止まれば、隙ができれば何とかできるかもしれないと彼らは焦った。

「どうすればっ」

と、空から雷が落ちた。


つづく

手紙のなんちゃって古文は、変換サイト様を参考にいたしました(笑)
ホントになんちゃってですがwwwww

2012.5/24

[ 77/113 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -