疑似夫婦の幸せとは


○疑似夫婦の幸せとは

ちょうじさん、改め中在家長次さんと連絡がついた。八左ヱ門だと名乗ると、すぐにこへ兄ちゃんの従弟だとわかってくれて、久しぶりだなと言ってもらえたのがとても嬉しく感じた。色々と兄ちゃんを案じているようで、ちゃんとご飯は食べているか、寝付きは悪くないか、やけ酒をして体を壊していないか、あれこれ質問されて、長次さんがいかに兄ちゃんを大切に思ってくれているかがよくわかる。質問の内容がまるでお母さんのようだが・・・・まぁ、うん。

『小平太の恋人の話だったな』
「はい」
『小平太の恋人は男だ』
「男・・・・」
『軽蔑するか?』
「いえ、俺の恋人も男なんで・・・・」
『そうか』

従兄弟って似るのかな。これで喜八郎も男と付き合ったら死んだじいちゃんがあの世で泣くぞ。ばあちゃんの夢枕に立つかもしれない。

「兄ちゃんは、その恋人と喧嘩でもしたんですか?」
『いや、喧嘩というより・・・・』

長次さんが話そうとしてくれたその時、玄関から、いままで散歩に出ていたこへ兄ちゃんのただいまと言う声が聞こえてきた。

「あっ」
『帰ってきたようだな。またタイミングを見て電話してくれ。昼はだいたい暇だ』
「は、はい。ありがとうございました」

ピッと慌てて切った直後、どたどたと兄ちゃんが居間に入ってきた。

「八左ヱ門、先生かなんかと電話してたのか?」
「あ、うん。先生にレポートのことで質問があったんだ」
「そうか。えらいなぁ」

わっしわっしと頭をかき混ぜられる。

「わっ、ちょっ、やめてよ兄ちゃん!」
「喜八郎たちは?」
「喜八郎は、滝夜叉丸くんたち友達四人でお泊まり会するって言ってただろ。孫兵はまだ学校から帰ってない。勘ちゃんは・・・・」
「お前の膝で寝てるな。膝枕か、いいなぁラブラブで」

ビクッと反応してしまう。先ほど長次さんに聞いた男の恋人の話が頭をよぎる。

「に、兄ちゃんには恋人とかいないの?」

いきなりじゃないよな。話の流れとしては自然だよな。内心、すごくドキドキしていた。

「いない」
「えっ、いない、の?」
「なんだ、いるように見えるか?」
「・・・・」
「おい、なぜ黙る?」
「何でもないよ。それより兄ちゃん、汗びっしょりじゃん。寝室にタオルあるから風呂がわくまでそれで拭いてよ」
「おう!そうする!」

俺が次に長次さんに連絡がとれたのは、確実にこへ兄ちゃんに話を聞かれない大学の昼休みだった。

「おじさんが反対?」
『七松家は代々続く歴史ある家だ。その跡取りたる小平太は子をなさねばならん』
「・・・・男同士じゃ子は生めない」
『そうだ。だから二人が傷つく前に、小平太のお父上は離したかったのだが、口論になりその末、小平太は逃げた』
「ちょうど喜八郎からメールが来て、だからうちに来たんですね」

兄ちゃんは昨日、恋人はいないと言った。いつも通りにっこり笑ってそう言った。あの笑顔の裏には、いったい何を隠しているのだろう。恋人との仲を認められないもどかしさか、跡取り故のしがらみに対する憤りか、恋人に対して申し訳無く思っているかもしれない。俺は一人っ子だが、別に必ず子をつくらないといけない環境ではないし、兄弟がいるらしい勘右衛門もしかり。だから、兄ちゃんやその恋人の気持ちを正確に察することはできないかもしれない。だけど、生存本能に逆らって男同士で恋人になるなんて本気で好きあっているからこそなんだってことは、身をもってよく知っている。女の子に目移りすることはあれど、やはり勘右衛門がいいと再確認できるし、もし勘右衛門以外の男と付き合えと言われたら願い下げだ。この前の短歌からも、相手が兄ちゃんを強く想っていることはわかる。兄ちゃんと同じように悩んでいるのだろう。本当はそんなときこそ大好きな人の傍にいたいはずだ。

「跡取りが途切れなかったら、おじさんは納得するでしょうか?」
『お父上はもう納得なさっている』
「え?」
『いなくなった小平太を必死に探すあいつの姿を見て、血を繋げることよりも、孤児を養子にするなどをして家業の技を、七松家の心を未来へ繋げることこそ大事だと考えを改めなさった』
「そう、なんですか?じゃあ兄ちゃんにそのことを伝えれば・・・・」
『心が大事だからこそ、逃げた小平太が自分の意思で決意を固めて戻ることを望み、あえて何も言わないのだそうだ』
「決意、ですか?」
『なんとしてもこの恋人と共に生きたいのだと、そういう決意で頭を下げにくるくらいの覚悟のないやつに、この恋人は勿体ないとおっしゃった』
「おじさん、めちゃくちゃ恋人の味方じゃないですか・・・・」
『すっかりお気に入りだぞ。小平太にはお父上が認めていることだけは言ってはいけない』
「わかりました」
『では』
「長次さん!ありがとうございました!」
『こっちこそありがとう』

電話を切って、しばし考える。自分はまだ互いの両親に紹介しあってこそないけど、男の恋人がいることは然り気無く伝えてある。反対はされていない。こへ兄ちゃんに比べると、よっぽど・・・・。食堂の窓際から、友人たちの待つ席へもどり、勘右衛門の隣に腰かけた。

「おかえり。どうだった?」
「・・・・」

目を瞑って勘右衛門に寄りかかる。

「えっ!?何ハチこんな人前で甘えてくるなんて珍しい!」
「うるさい」
「リア充爆発しろ」
「こら三郎、そんなこと言わないの」
「豆腐うまい」

普段なら絶対こんなことしない。でもいまだけは、勘右衛門の隣にいられる幸せをかみしめたかった。

つづく

勘右衛門の元カノがハチを指差して「男同士なんて気の迷いよ。アンタなんかすぐに捨てられるんだから」って言って勘右衛門がキレる話を書きたい。


2012.7/15

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