カナリア動乱 第八話 「よく来たな、レオ。あぁ、そっちのは別室に連れて行け、話があるのは王子だけだ」 「かしこまりました」 ――サエキ様、群咲様、どうぞこちらへ。 言葉こそ客人を招くものだが、そこにあるのは有無を言わさない圧力。 共に白の列強だったと言えど国力の差は歴然であったトウシュウにとって、ルベニアはいまひとつ頭の上がらぬ相手だ。リンドウは言うに及ばず。 たとえそれが「国同士」レベルの話でなくとも、未だ確かに影響を及ぼすのだ。 ましてや即位したての王が若い分、先代から仕える島宰相が脇から威厳を添えていると言っても過言ではない。 迫力では、三十路にやっと手が届くかという祐介や若い舞衣の及ぶところではなかった。 最後まで主人を心配そうに見つめていた祐介が「大丈夫だよ」とレオ自身に背中を押されて退去し、謁見の間が静謐に落ちる。 それを破ったのは瀬古のため息だった。 「どうして真っ先にルベニアを頼らない」 「ただの内乱です。ルベニア国王のお手を煩わせるほどのことでは――」 「そうじゃない! 間違ってはいないがそっちじゃない、貴様も分かってるはずだろう、レオ!」 レオの言葉を遮って若い王の、否、瀬古の怒声が飛ぶ。 「何のためにお前を従えていたと思ってる!? 俺だって王政の中で生きてる人間だ、臣下は王に従う、代わりに王は臣下を守る! そういう『契約』の中で生きてるのが俺たちだろう! お前がルベニアを頼らなければ、俺がお前を従えている事実をなかったことにするも同然だ!」 「仰いたいことは分かります。私やクラカ家が貴方やルベニアの王族列族に従っていることは事実です。ですがリンドウはルベニアの植民地ではありません。王族が個人的に従っているだけで、もはやルベニアがリンドウの内政に国家ごと干渉できる時代ではありません」 言外に『国として助けを求められる状況ではない』と切り捨てたレオが、高い靴音に威嚇される。 「国として干渉される意思がないのに、王族が他国の王に臣従すると、そう言うのか?」 「その通りです。別に、王室法で決まっているわけでもありません。ただ私も父も、父祖たちも、己の判断でルベニアに従ってきました。あくまで個人的に臣従していただけです。そうすることで、国交上の利益があると知っていますから」 「は、語るに落ちたな」 片頬を吊り上げた瀬古が一旦は乗り出した身を椅子に沈める。 「お前が個人的に俺に仕えるなら、お前の主人である俺はお前個人の安全を保証する義務がある。当然、お前は危機に於いて俺を頼るべきだ。でなければ俺の顔を潰すのだからな。お前も人を従える身であればそれくらいは分かるだろう?」 「……っ!」 瀬古の誘導に乗せられた、とレオも気付いたが、挽回するには言葉が重すぎた。 ましてや、瀬古の言いたいことは十分に分かる。仮にも己とて、臣民を抱える王族であるならば。 「俺を頼れ、レオ。その『内乱』とやらに、俺を介入させろ」 「――……御意」 最後に会ったのはいつだっただろうか、と胸中で目を眇める。即位する前だったか。 この若き王はようやく十八になったと記憶しているが、いつの間にこんな言い回しを得たのかと唇を噛むレオ。 先王の時代には公認私掠船へ嬉々として乗り込んでいた傍若無人の少年は、その様を玉座から満足げに眺めていた。 to be continued... --- ご無沙汰してました、四週間ぶりの続き。 瀬古さん登場。大体お笑い担当です。 12.03.12 加築せらの top * 他校 |