Luck on Birthday


「誕生日おめでと、シン」
「サンキュ、要」
「お前の誕生日が今日で良かったよねぇ、ホント。あと二日遅かったら困るとこだった」
「はは、全くだぜ」

 早朝の部室。
 恋人から祝いの言葉とプレゼントを受け取って、春にはまだ少し遠い空気を吸ってベンチに座る。
 もうとっくに部は引退したし、身体を鈍らせないために放課後は顔を出すとしても、朝練まで参加することはない。
 だけど、要と会うならここが一番良い気がした。

 思えば、一番良い頃に生まれた、気がする。二月の下旬。
 中学に入ってしばらくした頃、恋人ってモンが出来て。
 付き合い始めて、そういえば誕生日いつだ、という話をしたのが年も変わろうかという時期だったと思う。
 それでも早生まれだから日程には余裕があって、恋人が出来てから初めて迎える誕生日をちゃんと二人で祝えた。

「ここでお前の誕生日祝うのも、これで最後だね」
「だな。……俺のを六回、お前のを五回祝ったな」
「うん」

 中高一貫だから高校もそのまま持ち上がりで、ずっと要に祝ってもらってきた。
 慌しくなりがちな年度末だけど、在校生はまだ春休みに入ってないし、平日なら普通に学校で会える。
 仮に土日だとしても部活で会えたけど――春に向けて三年の抜けた新チームを必死に作ってる頃で、あまり休みはないから。

「試合の日だったこともあったよね? 中二の時だっけ」
「あったなー! 高等部の二軍とだったか? いやーコテンパンにやられて」
「シン、最初から徹底マークされてたもんね。オレはスタメンじゃなくてさ、どうしてオレがそこに居ないんだろう! ってジタバタしてた」
「んで、お前が来て俺のマークが一枚剥がれたけど、それでもシュート一本も打たせてもらえなくて」
「試合の後、お前の家でひとしきり泣いて、そのまま寝ちゃったんだよね」

 『在校生』に該当しない、中等部三年の時も、春休みはそんなに長くなかったし。
 卒業式があると言っても高等部に遷るだけだから、荷物を纏める時間がある程度。
 そもそも葉蔭学院は進学校でもあるから、休みを名目上長く撮ったところで補修はある。
 補修を休めるとすれば試合で公欠の場合だけだ。文武両道は楽じゃないってこった。
 それは高等部に上がってからも同じで。
 部活に授業に忙しくても、俺達より余程忙しい奴がいたから、絶対に負けられないな、って一緒に頑張れて。
 結局二人して、一度も勝てなかったんだけど。

「高一の時にさ、家まで待ち切れなくて部室の裏でキスしてたら飛鳥にバレたじゃん?
 あの時『へぇ、そうなのか』だけで済まされて、驚いたけどホッとしたよね」
「うっわ懐かしい。って行っても、あれから丁度二年か。……二年しか経ってねえのか……そんな気しねぇなー」
「特にこの一年は長かった気がするよね。中等部の時にも経験したけど、自分の世代が部を引っ張ってる間は凄く時間が長くて」
「でも全部通してみると、感覚的には恐ろしく速いんだよなー。お前と出逢って、もう六年だぜ」
「ちょっとした腐れ縁にはなるよね、もし恋人じゃなかったとしても」
「だな」

 他愛ない話題。その中で時間が過ぎていくのが堪らなく愛しい。
 要と離れることも、この場所から巣立つことも、もうすぐ同時にやってくる。
 六年間一緒にいて、時々クラスメイトだったりして、五年半くらい、恋人として過ごして。
 でもサッカーやる上ではチームメイトでライバルで。
 でもそれがこの特別な環境の中だったから起きた偶然みたいな関係なら、卒業と同時にその関係が全部リセットされるかもしれない。

 だけど、今、要が言ってくれたから。
 少なくとも腐れ縁で居ることは出来るんだ、って分かって、ホッとした。

「なあ、要」
「うん?」
「次の、お前の誕生日、来るだろ」
「うん」
「ここで会うか?」
「そうだね、オレもそれが良いと思う。オレたちらしいよね」
「おう」


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真屋+白鳥=『真っ白』。
真屋さんの誕生日は、作中時間ならもう卒業間近だと思うので。

『真っ白』という言葉の順番故に真屋×白鳥な気がしますが、正直どっちでも問題無いような。
この二人は、この話では恋人だったけど、そもそも恋人じゃなくてもいい。
飛鳥さんの右腕と左腕として二人三脚、飛鳥さんが遠征で部を空けるときにチームを支えてたんじゃないかなーって思ってます。
真屋さんと白鳥さんが、この二人の独特の空気であるだけで割と満足…(´ω`*)
友情でも、愛情でも良い、悪友でも最愛の人でも良い、いっそ他に各自恋人がいても良い。
真っ白コンビが大好きです。

12.02.27 真屋誕 加築せらの 拝



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