カナリア動乱 第一話

 夜明け前に上がった火の手は、『旧時代の遺物』と揶揄された豪奢な木造りの離宮を瞬く間に舐めつくした。

「王を捕えろ!」
「王子たちもだ!」
「王太子が逃げたぞ! 追え!」

 火を反射して赤く輝く鎧に身を包んだ男が声の限りに命じる。

「特に王太子レオナルドは必ず捕まえろ! 父王共々、殺してはならんぞ!」
「クニマツ将軍、王太子についてお知らせがございます」
「何だ。手短に言え」
「王太子と付き人三名、一昨日には既にこの離宮から出ていたとのこと、門番から証言がありました。……いかがなさいますか?」
「事実上の亡命か、腑抜けたことだ。ふむ、王は捕えたし、これで革命は成功したも同然だな」

 報告を受けた将軍がざらつく顎を撫でる。
 王族を一網打尽にするべく、昨夜の未明から伏兵と共に張っていた彼の努力は半分実った。しかし、これでは不足なのだ。

「王室典範によれば、王が死んだ時点で王太子が存命ならば、自動的に王太子が国王となる。仮にも元首が亡命中となれば国内を取ることはできるが、それでは我々は『クーデター政権』でしかない」

 コツ、と将軍の儀典剣が地を突く。背後で炭ばかりとなった離宮の柱が崩れた。

「ましてや他国に保護を求め、入国を承認された元首であるならば、その国のメンツにかけて保護される。我々が彼に危害を加えることは外交問題に発展する。……公式に保護されれば内政干渉とも言い切れなくなるからな」
「かと言って、王位継承権を持つ者が一人でも存命である限り、王室典範を廃止には出来ない……既に事を起こしてしまいましたから、今からでは憲法の改正も間に合いませんね」
「そういうことだ、セラ。……仕方ない、王を先に処刑してしまえば王太子が元首になる。王太子以下全ての王族を捕えて、継承権を放棄させるか、処分するまで、王は生かしておけ」
「かしこまりました。それでは、僕は直ちに出国管理局に向かいます」

 旧体制を象徴する離宮と、そこで団欒しているはずだった王家。
 今や先の王朝より続く宮殿は焼け落ち、太祖ユウゴから三百年の歴史を継ぐ王家の裔も王太子レオナルド一人を残して将軍の手に落ちた。
 優秀な王による立憲王政は終わりを告げようとし、リンドウ王国はリンドウ共和国へ代わらんとしていた。

「……殿下にも王家にも、恨みは無いんですがね」

 空港へ向かうべく踵を返した青年将校――セラが、少しだけ足を止めて振り返った。

「クニマツ将軍。ひとつ伺っても宜しいでしょうか」
「どうした? 中佐」
「閣下とスグル陛下は四十年来の親友だと聞きました。」
「……あぁ」

 クニマツが僅かに眉をひそめる。どこで聞いた、というものでもない。
 将軍の実母が現王スグルの弟カケルの乳母だったことは宮内省の者でなくとも知れた話だ。

「閣下にはお子様がいらっしゃいませんから、殿下たちのことは実の御子のように可愛がっていたとも伺っております」
「それがどうした? 時間が惜しい、雑談なら切り上げ」
「親友とその子供を。貴方に、殺せるんですか?」
「――――、無論だ。それがこの国のため。今の王朝は民に貢献しない、ならば排除せねばならん」
「……よく分かりました」

 ふ、とセラが息を吐く。
 それは微かな笑顔にも見えたが、クニマツ将軍は咎めるでもなく彼を送り出した。



to be continued...

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ツイッタの診断(http://shindanmaker.com/181826)で出た
「うおおおおおおおお!!秘書×王族なホモくれええええ!!!!!!」
について、ななこさんとTLセッションした結果「よし、リキレオでやるか!」と。
でも人物関係と役職だけ考えて、書きたい部分だけ書くパロです。
時系列でもないし、見栄えのするとこだけ書いちゃう。もしくは日常部分。
多分、設定詰めたら穴だらけです。何語で話してるとか年齢とか^^
その辺ゆるーくお付き合い下されば幸いです。

※念のため簡単な呼称の解説。
閣下=将軍や立場の高い政治家への敬称。
 王政の元では臣下の立場だが、その中でも偉い人への呼称。
陛下=国王や皇帝を指す。
 元首であれば誰でも良いワケではなく、首相や大統領などには使えない。
殿下=ここでは王子・王女を指す。
 王の弟や妹など、王族の中でも「陛下」以外を指す言葉。
王太子=王の子供の内、『次の王様に指名するよ』と指定された人のこと。
 例えば王の弟が『次の王様候補』である場合は「王太弟」と変化する。

細かく説明すると多少の間違いはあるけど、おおよそ今作ではこの意味で使います。

12.01.31 悪ノリして 加築せらの

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