over-lay, over lie


「オレ、勇太さんに何が出来ますかね」
「さぁな、俺にも分からん。……とりあえず隣に居ろ、そのうち分かるだろう」
「そーですね」

好きだと言われてそうかと答えて。
付き合ってるようで以前と変わらぬ距離感でひと月過ごして、しびれを切らした島が問うてきたのがこれだ。

俺が好きだから俺のために何かしたい、俺の力になりたいのだと云う。
同じピッチに立つ以上に殊更望みなぞ無いが、島がそう言うなら考えてみるか、と思ったがこれと言って思いつかなかった。
よく考えなくても酷い遣り取りだが、どうしてか子供のように、大層嬉しそうにしていたのは覚えている。

その日から何かにつけて隣に居るようになった島に、無理はするなと諭したが頬を膨らまされただけだった。

「俺が言ったからって、四六時中傍に居なくてもいいんだぞ? もっとお前の好きにしろ」
「オレに『好きにしろ』とか言ったら今すぐ勇太さんお持ち帰りしますよ? 可愛がってくださいね」
「持ち帰るのにお前が可愛がられる側なのか? お前を可愛がるのに異存はないが――って話を逸らすな。
 なんだ、つまり、もっと自由にしていいんだ。本当に、無理はするな」

恋人になると言ったが、傍に居ろとも言ったが、島を束縛するつもりもない。
そんな趣味も無いし、島はのびのびしてる時が可愛い、と思う。
けれど島は俺の想定の範囲を大きく外した所から答えを寄越した。

「ハハ、バレちゃいましたか。……うーん、充分好きなようにやってますよ?
 オレが傍に居たくてべったりしてるだけなんで。あ、勇太さんが困るなら控えます」
「別に困ってない」
「じゃあ良いじゃないっスか。許されるならもっと傍に居たいですけど」
「……もっと? 今以上にか」
「えぇ、もっと。『とりあえず傍に居る』だけじゃなくて、勇太さんに望まれて傍に居たいっス」

にっ、と。
悪戯っぽい笑顔でけしかけられたら、ここでペースに乗ったら島の思うツボだと分かっていても反るわけにはいかなくなる。

「……良いだろう、それがお前の望みなら別に構わん。
 好きなだけ傍に居ろ、俺も好きなだけ構うし、気が乗らん時は構ってやらん。それで良いな?」
「もちろんっス!」

言わされたと云うかしてやられたと云うか、島の思い通りに甘やかした気がする。
どうやらこういった駆け引きでは一枚も二枚も上手らしい島に、意外さは隠せない。
だがそれも島の一部か、と思えば手玉に取られようが可愛いものだ。


そんな大概酷い遣り取りを重ねて、島は以前のような表情を俺に見せることは少なくなった。
だが誰にでも見せる笑顔と引き換えに、無邪気に笑ったり婀娜っぽかったり、子供のように拗ねた仕草だったり、他で見れない島の顔を一人占めできるなら望外の喜びだ。

黙れバカップル。と『一般的な意見』を知人Tから貰って初めて俺たちがバカップルと呼ばれるものだと自覚したが、島が可愛いからまぁいいか、と思っている。




Fin.




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哀緋ちゃん誕生日=よし瀬島ろう!というわけでふたりへのお題ったーからお題を借りて。
『瀬島へのお題:とりあえず隣にいてよ/「もっと。」/笑顔と引き換えに 』でした。
哀緋ちゃんおめでとぉおおおお!!!!!!


11.09.14 加築せらの 拝



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