ひとやとふ がじ、指先を噛む。じわりと朱が滲む。 よく傑にされた動作。アイツはもちろん血が出ない程度にだったけど。 合わない予定を無理に合わせて情を交わした閨の内も好きだ。 身体に残る痛みは確かに逢瀬の記憶を残す。 けれど、それも薄くなれば胸の痛みだけがいや増す。 そんな俺を見透かしてか、傑はよく俺の指を噛んでいた。 ベッドで、教室で、部室で、校舎裏で、共に呼ばれた代表合宿の宿舎で。 簡単に痕跡が残って、少しの情愛が伝わって、それが薄くなっても自分でそれを再現しやすい行為。 俺でさえ呼ばれてなかったU-17の招集、出立の前日にもよく指先を噛まれた。 しばらく学校にも来れないから顔を合わせることが出来ないから。 俺が寂しがるのを見越したようにくっきり鬱血の跡が残るほど噛んでいきやがった。 『ね、俺の指も噛んで下さいよ。出来れば左手の薬指』 へらりと帯びた笑みは色ボケてるくせに精悍で、少しばかり咎さした。 本当はとうに意識を試合に向けているくせに、俺のためにわざわざ恋人を意識してくれているのが、嬉しいようで申し訳ないようで。 『……次は俺もU-17呼ばれてやるからな』 『待ってます、早く来て下さいね。 ……その時はお祝いに、こんな赤いのじゃなくて、ちゃんとした指輪買ってあげますよ』 『その年でその甲斐性もどうかと思うけどな!』 そうしたら、傑にこんな都合させずとも傍に居られる。 傍に居られるなら、寂しくない。こんな痕跡も必要ない。 ――傍に居られるなら、必要無かったのに。 ぐっ、と歯に力を込める。僅かに血の味がしたところで止めた。 決して纏うことのない「傑からの指輪」が収まるべき位置に付け続ける赤い痕。 誰からも見えないようにテーピングを施して、部屋を出る。 「タカ? 指、どうしたんだ」 「あー、ちょっと突き指」 「……そうか」 傑だけが知っている、薬指の痕。 傑だけが知っていればいい。だから人に問われようと答えない。 誰が知らなくても、どこからか今日の試合を見ているなら、きっとお前は気付くだろう? Fin. --- 傑鷹センチメンタル。 傑の方が上の学年の代表に呼ばれてたと気付いて書かざるを得なかった。 早く追いつきたかったけど、さしもの鷹匠瑛も高校1年生の頃はU-16までだといいな! 11.09.10 加築せらの 拝 top * 他校 |