Vita, espresso

俺の飲んでいる物に「一口くれ」と食いつく荒木。
兵藤から「マジ旨いから飲んでみろって!」と渡された缶の紅茶を傾けていた今も、ひょい、と持っていかれる。

「あ」

それ、かなり濃い目に淹れたブラック無糖だが。
お前そのテのダメじゃなかったか?
制止する前に、涙目の荒木が缶を返してきた。
遅かったか。

「なんで織田こんな苦いの普通に飲めるんだよ……!」
「まぁ確かに少し苦いが。問答無用で持っていくお前もどうかと思うぞ」
「少しってレベルじゃねーよ」

あと、それは悪かった反省してる。と項垂れつつポケットから飴玉を取り出す。
口直しにと砂糖の塊を放り込む姿は少し可愛く見えて、叱るに叱れない。
一応「どうしてそんな物を常備しているんだ」と云っても良いんだろうが。
代わりに、笑ってしまった収拾を付けるように口を開く。

「お子様味覚だな」
「う〜…お前と味覚違いすぎる。一緒に暮らすの苦労しそうだなぁ…」

机に腕を伸ばしてへたり込む荒木に苦笑する。
そういえば、先週そんな話をしていたんだったか。
あまりに空想が過ぎるから、却下したものだが。

(あぁ、やっぱり無理だな)

そうだ、現実的に考えれば、荒木だって諦めるだろう。
そう思うと少しばかり胸が痛い気がしたけれど。

ふと、言葉の違和感に気付く。
荒木は今、「無理そう」ではなく「苦労しそう」と言わなかったか。

(それ、って)

「――――ッ、……!」
「お? どーしたよ織田ちゃん真っ赤じゃん」
「っだ、れの、せいだと……!」
「うん? 俺、だよな」

伝わって良かったぜー。なんて。
あまりにいつもの顔で笑うものだから、どうにも顔を上げられなかった。

全く、この王様だけは。
ピッチの中じゃ飽き足らず、普通の生活でまで俺の鼓動を速めてくれるのだ。


……常識で考えろ、無理だ、なんて言ったけど。
荒木もまだ諦めてないみたいだし、諦めたと思ったら胸が痛む程度には、俺だってその未来を望んでいる、らしいから。

「荒木」
「何だ?」
「無理なんて言って悪かった。考える余地はあるから、もう一度話し合ってみるか」
「そー来なくっちゃ!」

お前が隣にいる人生を、真剣に考えてみるよ。



Fin.

---

一度、書いたものが全て消えたけど負けない^p^
織田ぽよは、生きていくステージが、立つべきピッチが、多分違うけど。
だからこそ二人で生きていくことを、二年生の内から考えてそう。
ちゃらんぽらんな荒木だけど、サッカーと織田くんの事だけは真剣、という。

11.06.14 加築せらの 拝

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