Cry, then be you. 不意に近づく人影に、背中に隠した素直な声は殊勝さを帯びていた。 「悪ぃ、荒木」 「気にすんな。そんな時だってあるだろ」 この世代の至宝と謳われる逢沢傑にだって、泣きたくなる時のひとつもあっていい。 だって俺たちはまだ、中学生なんだから。 だけどその身に期待と重圧を背負って、負い続けてなお潰れることの無かった傑には、とうとう耐えられないことが起きた今に至っても、自己の崩壊を許容して良いのかどうかさえ分からないらしかった。 「俺、泣いてもいいのかな。」 「良いに決まってんだろ。泣いちゃいけねーなら、その涙は何のためにあるんだって話だろ」 「……眼球を乾燥から保護するため?」 「今そういうボケ要らねーから!」 全く、コイツは仕方ない。 器用そうに振る舞って、年の割には人間出来てるよな、なんて大人からも同年代からも云われる、そのくせ人間として大事な部分がコレだ。 まぁ、傑が過ごしてきた環境を思えば同情と苦笑の余地はあるが。 仕方がないから、木立と俺の影に隠して泣ける空間を作ってやる。 泣いて良いんだと許可を出したって、人の『憧れ』であり続けたこの男は、きっと人に涙を晒すことを拒むから。 ……俺なら良いのか、と思って心臓が弾んだことは否めない。 「……荒木、お前は、俺のこと弱いと思うか?」 「さぁな。つか、なんでそんなこと訊く?」 「だって、俺、こんなに情けない……」 「サッカー絡みで泣いたぐらいでか? だったらピッチに強い奴なんかいねーよ。誰だって一度くらい、夢のためにゃ泣かされるもんだ、って偉い人が言ってたろ」 「誰だよ」 「俺の頭で人名まで覚えてると思うなよ」 「胸張って言うことか!」 ――そう、泣いたっていいんだ。 傑がずっと掲げ続けた『弟と一緒にワールドカップを手にする』という夢が、弟がピッチを去ったことで叶わなくなった今くらい。 泣いたって、俺も、誰も、お前に幻滅したりしない。 ましてやお前を責めやしねぇんだ。 だから、泣け泣け、好きなだけ。 自分の『作り方』を知ってるお前は、きっと明日になったら、また王の顔をしてピッチに君臨できるんだから。 肩の服地からじわじわと濡れ広がっていくのを感じながら、首筋へそっとキスを落とす。 キスマークで主張してみるほど子供じゃない。 何もせずに慰めてやれるほど大人じゃない。 お前が弱味を見せる相手として認めて貰えてるのに、言葉に出して告白も出来ない。 そんな俺だって充分、情けないだろ? と笑えば「じゃあ俺たち、お似合いかな」と小さな声が返ってきた。 Fin. --- 傑荒へのお題:背中にかくした素直な声/「泣いてもいいのかな。」/キスマークで主張してみる ツイッタでお題が出ていたので傑荒ってみた。 お題メーカー作った方とろびんちゃんに感謝!^^ 11.06.08 加築せらの 拝 top * 江ノ高 |