あるテーゼ

『真屋さんが羨ましく思う必要は、無いと思うんです』
『相談なんて嘘ついてすみません』

思いもよらない言葉を残して去って行った後輩に、メールを出すか出さないか迷うこと二時間半。
後輩は、回りくどいとは言え正面切って俺に告げたのに、俺がメールに頼ったんじゃ先輩の威厳台無しじゃね? なんて自問自答を経て、そもそも何と書いたものか思いつかず、結局断念した。

無論「あれってどういう意味だ?」なんて聞くわけじゃない。
前者は『タクにそんなに大事に想われてる奴が羨ましい』という言葉への抑止だろう。
つまり、タクが(認められなくて困ってるけど)好きな相手は俺だってことで。
後者は、その補足。
実は相談のフリをした告白だったんだ、という意味だろう。

普通『好きな人ができた』なんて内容を当の相手に相談する奴なんか居ないから、すっかり騙された。
ましてや、『ほぼ間違いなく恋なんだけど、でもその相手とは恋愛抜きで付き合いたいと思ってる』なんて相談、するか?
ま、色んな意味で普通じゃないのはよく分かった。

だとしても、じゃあ俺はどうすればいいんだろう。ふと我に返った。

タクが好きなのは俺だと分かった。
ついでに言えば俺もタクをただの『可愛い後輩』以上に見てたらしいと気付いた。
だから俺の気持ちとしては、タクと恋人として付き合えるなら楽しいだろうな、とさえ思ってる。
でも、タクは俺とそういう関係抜きで付き合いたい、俺を不純な目で見てる自分が許せない、という。

俺の状況とタクの状況は一致していて、でも互いの望みは一致しない。
タクの気持ちと理性が乖離して、不自然に拗れた位置にあるからだ。
それは俺の状況を加味しても多分解決しない。

例えば『お前は俺が好きで俺もお前が好きなんだから、うだうだ悩んでないで付き合ってみりゃいいだろ』なんて言ったらきっとタクは断らない。
けど、そもそもタクの中に蟠っている『好きだということを認めたくない気持ち』は何一つ解決してない。
それじゃ、意味がない。

タクの抱える乖離が解決して、俺も納得できる、そんな答えはないだろうか。
それを見つけるまで、俺からタクにかけられる言葉がない。
結局、二時間半も開いて閉じてを繰り返したメール作成画面は、その夜使われることはなかった。





to be continued...


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11.05.09 加築せらの 拝

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