cross the line,

※傑さんが生きてたら、の話。中学から高校に掛けて設定。
 しかも織田くんが中学時代から既に荒木と知り合いです。
 どう転んでも捏造です。苦手な方は精神衛生のために退避推奨。




――最初は多分、小さな対抗心があった。

織田と一緒に居る時、荒木が楽しそうに笑うから。
そりゃ俺と居る時だって笑うけど、時々苦しそうにしてるのは知ってた。

荒木はたまに、ピッチの上では決して見せない、何とも言えない憂いた目で俺を見る。
それは練習の時や、他愛ない話をしてる時や、他にもあって、本当に何の前触れも無い。
実際のところ無いことは無いんだろうが、仮に荒木の出すサインや一定の法則性があるとして、でも俺には分からない。

分かりたい、と思った。最初は。
だって、織田は分かってるみたいだったから。

多分それは小さな対抗心と、少しばかりの嫉妬。
俺がサッカーと駆以外で初めて執着したのが、荒木だったからかもしれない。
俺が解ってやれない事を理解できる織田に、荒木を取られるようでイヤだった。

……でも、どうしても分かってやれなくて。考えが変わった。
荒木は、織田と一緒に居た方が幸せになれるんじゃないか。
そう思うようになった。

アイツが何に悩んでるかも分かってやれない俺より、織田の方が荒木の力になってやれる、支えてやれる。
その方が良いはずだって、思うようになった。
それから少しずつ、意識して必要以上の接近はしないようにした。
何度か荒木が物言いたげな顔で俺を見ていたけれど、実際に口にはしないんだからそこまでの事でもないんだろう、と意識の外に追い出すことにした。



***


――切っ掛けはおそらく、荒木の視線だった。

ふとしたことからあの逢沢傑とプレーする機会を得たのは何よりの僥倖と思った。
繋いでくれたのは荒木で、曰く「お前と傑のホットライン見てみたい俺のための計画」だそうだ。嘘がヘタだ。

会ってみて、彼我の差に呆然として、すぐに陶然となった。
風の噂には知っていた、むしろ神奈川にいて知らないわけがない、同世代の英雄。
わずか十歳でU-12のエースナンバーを背負った男が、俺のパスを受けてくれたんだと云う事実に心が震えた。

俺はもっと彼とプレーしたいと思ったし、荒木は荒木で三人で会うのを楽しみにしていた節があって、逢沢に時間がある時には俺の予定を確認するメールが来るようになった。
他の誰にも内緒で、過ごす時間が出来た。

有り得ないほどのチャンスに、少しでも技術を盗もうとした。
一旦休憩して、ただ足元にボールを従えているだけの時でも逢沢を観察した。
だから気付いた、のだろうと思う。

彼が荒木に対して持っている、複雑な想いに。
そして、荒木が逢沢に向ける、憧れと、それ以上の想いを含む視線に。

……気付いてから、俺も荒木が好きだと自覚した。
自覚した瞬間、失恋したわけだ。遅すぎたから、仕方のない事ではあった。

憧れを恋に錯覚してるならまだ振り向かせる可能性もあった。
だけど、憧れと恋が並立してるのだから割り込む余地などなかった。
だって、相手はあの逢沢傑だ。
憧れるのは十分に分かるし、勝ち目なんてない。
サッカーでも、男としての器でも敵う気がしない。

荒木だって一度は世代別に選出された奴だし、それだけのステージに立てる奴だ。
荒木の隣にいるのは、俺よりも、逢沢傑の方が自然だと思った。

だけどやっぱり好きで、だから少しだけ荒木から距離を置くようになった。
逢沢の時間が取れれば変わらず三人で会っていたから、物理的な距離は変わらなかったけど。
この下心を知られるのが怖くて、前みたいに気軽に肩を抱いたり小突いたり出来なくなった。




***



――崩壊の始まりは、多分俺が欲張りだったから。

それぞれ違う場所で知り合った傑と織田と、この二人の異才を出会わせてみたい。
最初は純粋にそんな、サッカーのことだけを考えた融通だった。

いつの間にか、それだけじゃなくなった。
俺は合宿を飛び出してしまって。それでも傑は気に掛けてくれた。嬉しかった。
傑が俺をサッカーに引き留めてなかったら、織田とだって疎遠になってたかもしれない。

同じピッチに立つ事を経験してからでも、傑への憧れはやまなかったし、それは当然の事だった。
「もう一度並び立って見せる」というライバル心もあったけど、無いわけがなかったけど、それを凌駕する憧れが胸の裡から湧いて出る。
傑はそういうプレーヤーだから、違和感もなかった。

……焦がれるに似たその気持ちが、いつから『似た』だけで済まなくなったのかは分からない。

それでも気持ちをひた隠しにして三人で会う内に、織田が俺から距離を置くようになった。
それは、分かりにくいけど。本当に少しだけ、隙間風が入ってくるような。
何の気兼ねもなく俺をシバき倒していた織田が、俺との直接的な接触を避けるようになった。

最初は、傑への道ならぬ想いがバレたのかと思った。だけど嫌悪の色は感じなくて。
良く見れば、織田も俺と同じなんだと分かった。相手が俺なだけ。
少しだけ困ったけど嬉しくて、戸惑った。
好きなのに距離を置く理由が分からなくて、俺から織田に近づいた。
そうしたところで、織田は頑なに黙り込んでいたけれど。

それが、傑との距離を空けることになるなんて気付いてなかった。

傑まで俺に溝を作り始めて、気付いたらたまらなく寂しくなって。
何度も話しかけようとしたけど、江ノ高に進学してますます気まずくなって。

もう傑の事も織田の事も、考えたくなくて部活に打ち込んだ。
幸い、織田とは所属するチームも違ったし、代表決定戦以外で顔を合わせることもあまりなかった。
自然と、三人で会うこともなくなった。




始まりがあったとしたら、俺が傑と織田を引き合わせたこと。
幕を引いたのも、俺。一人にされるのに耐えられなくて、自分から振り切った。



選手権予選への出場を掛けた決定戦が終わってから、一度だけ、織田に訊いた。
どうして俺から距離を取ったのか。
寄越された答えに、笑ってしまった。
「お前は、アイツと居る方がいいと思ったから」なんて――傑と、全く同じ答えだったんだから。
まぁ尤も、傑にそう言われて初めて、俺の片想いじゃなかったんだと知ったけど。


二人のどちらにも身を引かれて、結局は三人とも独りになって。
だけど傑も織田も、その事実は知らない。
傑は俺が織田と付き合ってると思ってるし、織田は俺が傑と付き合ってると思ってる。

一人だけ事実を抱えたまま、多分俺はこの先どっちとも近付けない。
それは、勝手に始まりを作って、勝手に終わらせた俺のための罰だから。


Fin.


---
らいさんがツイッタで私を萌え殺す気だったので、
慌てて書いて威力を発散させてみた傑→荒←織。
素敵設定を活かせておらぬでござるよ……

11.05.02 加築せらの 拝

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