葉蔭夢−飛鳥ver



「……多分ね、私、飛鳥が好きなんだ。今のところ自覚ないんだけど」

自分の気持ちと向き合って、出た結論を口にする。
飛鳥と鬼丸くんが、それぞれに息を呑んだ。

「飛鳥ってさ、気遣い出来るようで案外俺様だし、TPO気にしないし、実は結構子供っぽいトコあるし」

あ、飛鳥凹んだ。人の話は最後まで聞こうか俺様。

「だけどそれ知ってても、プロポーズ?されて『無理、有り得ない』って気はしなかった」
「脈アリだと思っていいんだな?」
「多分ね。まだ全然実感ないんで、これから飛鳥が私にどれだけアピールするかじゃない?」
「そうか……なら、覚悟しておけ。絶対卒業までに陥落させる」
「飛鳥、それは口説く相手に言う台詞じゃねーよ」

真屋が入れたチャチャに私と白鳥が噴いて、場に張りつめた緊張感が一気に緩む。
それから、ずっと黙っていた鬼丸くんに視線をやる。
俯いてるかと思ったけど、意外な事に、じっとこっちを見ていた。

「楠木先輩、あの」
「うん?」
「好きだって実感が無いなら、それなら、まだ俺にもチャンス、ありませんか?」

必死に、まだ引かないと目が雄弁に語る。
突き付ける、と云うほどには強くない言葉は、どこか縋るような。
それを断ち切るのは、そりゃ少し、後ろ髪を引かれるけど。

「ごめんね。鬼丸くんは、私の『一番可愛い後輩』なんだ」
「……『後輩』かぁ……それ以上になれないなら、しょーがないっすね」

困らせちゃってすみません。
努めて明るく笑う、彼の目元がじわじわと赤くなってきたのは気付かないフリをした方が良いんだろう。
鬼丸くんだって男の子だから。告白した相手の前で泣く姿なんて見せたくない、筈だ。

白鳥に『後は頼んだ』と目配せして、頷いたのを確認して私は席を立つ。
悪いね、白鳥。泣いてる鬼丸くんに付き合えるの、君だけだと思うから。
普段は飛鳥の役割だけど、今だけはそうもいかないから。
真屋も自分の役割は心得たもので、飛鳥に何事か呟く。飛鳥が頷いた。
多分、私が出て行った後を二人で追って来るんだろう。


***


二人を階段下で待つこと八分。
ようやく聞こえた足音に顔を上げると、ニヤニヤ笑う真屋と複雑な顔の飛鳥が下りてきた。

「思ったより遅かったね」
「おう、鬼丸が飛鳥に啖呵切ったもんでな」

あぁ。それでニヤニヤしてるのか。

「何言われたの? 飛鳥」
「男同士の話だから、楠木には内緒だ。……お前が居たら言わなかっただろうからな、鬼丸も」

楠木だって分かってて席外したんだろう? と問う飛鳥に頷く。
だからまぁ、大体、訊かなくたって予想はついてるんだけど。
鬼丸くんああいう子だし、『泣かせたら承知しない』とか、その辺だろうな。

「飛鳥がそう云うなら訊かなくても良いや。あ、真屋」
「ん?」
「なんか変なことに巻き込んじゃってごめんね? 俺様飛鳥様が急に色ボケるもんだから」

ウチの旦那がごめんなさいねー、なんてノリで付け足す。
返す真屋もお互い様よ奥様ー。みたいな振り付けを乗せて。

「あー大丈夫。俺も要も飛鳥の色ボケは慣れっこだから。流石にいきなりプロポーズかよってビビったけど」
「待て楠木も真屋も、色ボケって」
「否定できる余地はないと思うわ」
「右に同じ」
「お前ら容赦ないな……」

あはは、拗ねた。
そんな細かい事気にしてるから大事なとこ聴き逃すんだよばか飛鳥ー。
私の意図はよっぽど真屋の方が理解してるんじゃないの。目が笑ってる。

「ふーん、飛鳥お前、もう楠木に旦那って認めてもらってんじゃねーの。良かったなぁ?」
「――――ッ、楠木、」
「気付くの遅い」

ぺし、と額を軽くはたいて歩き出す。
そういえば四月の測定以来、飛鳥とこんなに近寄ったの初めてかもしれない。
……飛鳥にも『好きな女の子より背が低いのはちょっとヤだ』なんて俗っぽいとこあるのね。
うん、旦那発言はまだ冗談のつもりだったけど。
どうしよう、この皇帝、思ったより可愛いわ。



Route1 - 飛鳥ver Fin.




[ 9/10 ]




[短編目次]

[しおりを挟む]




「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -