何様俺様。/鷹匠
「あやのー、居るか?」
「はい。出来れば教室で名前呼ぶのやめて下さいね先輩のファン怖いんですから。それで、ご用件は何でしょう鷹匠先輩」
「今日雨でグラウンド使えねぇだろ? だから室内用のメニュー組んどいた。コピーして、放課後までに各学年三枚ずつ配っといてくれ。あと、聞き入れる気のない要求だからスルーしただけだ」
「うわー俺様。了解しました。二年生の分は国松先輩、一年生の分は佐伯くんに渡しておけば大丈夫ですかね」
「多分な。じゃー頼んだぞあやの」
「だから名前で呼ばないで下さいってば」
「だから聞く気はないって言ってんだろうが。大体なぁ……」
用件の合間に牽制と俺様発言と罵倒とスルーが飛び交う。
正直良い度胸だと思う。主に私が。
なんたって相手はウチのエースで主将の鷹匠先輩。私はしがない一年生マネージャー。
常識的に考えて、先輩に、しかも自分とこのキャプテンにあの口答えはない。
普通ならシバかれているところだろう。普通なら。
だが私以上に普通でないのが鷹匠瑛と云う男だった。
そもそもサッカーは好きだが、金網の外の一ファンで満足していた私。
選手個人個人に栄養管理だってあるだろうから食べ物の差し入れなど作った試しはないが、毎日見学に行くだけで楽しかった。
それがある日、『そんなに好きならもっと近くで見たらいいじゃねぇか』と問答無用で部室に連行された。
挙句、マネージャー希望者として熊谷監督に紹介したのが、この鷹匠先輩だ。
何の話かも分からないまま戸惑う私の後ろから囁かれたセリフは絶対に忘れない。
『お前がここで断ってみろ、オレの立場が無くなるって分かるよな?』
それまでロクに話したこともない後輩を、いきなり脅しやがったのだこの男は。
部内では世良くんが黒いと恐れられているようだが、彼の黒さなんて表に出ている分、可愛いものだ。
はっきり言って鷹匠先輩の比じゃない。
「――い、オイ! 聞いてんのかあやの!?」
「……聞いてませんでしたすみません!」
いけない、ちょっと過去にトリップしていた。
過去と云っても私が入学してすぐの事だから、せいぜい二ヶ月前なんだけど。
「っノヤロ……あークソ、もういいっ。放課後覚えてやがれ」
「えっ、」
そこらのガラ悪いにーちゃんが言うと負け犬の遠吠えになる台詞も、鷹匠先輩が言うとビシッとキマった悪役に聞こえてしまうからタチが悪い。
……ガラが悪くないとは言わないけども。
とにかく不穏な言葉を残して立ち去った鷹匠先輩を見送り、はて何を言われたんだろうなぁ、と気になった。
いつもは何でもない教室のざわつきに、意識の隅からひたひたと不安を煽られる心地がした。
……あぁ、神様仏様。
部活の時間が来るのが怖いです。
ついでに言えば鷹匠先輩のファンの人たちも怖いです。
それはそうとして私は、鷹匠先輩に何をしでかされるんでしょう。
今日も無事に家へ帰れるんでしょうか。
楠木あやの(15)、ライオンのしっぽを踏んだ気分です。
鎌学の暴君こと鷹匠瑛の牙を、いつまで避けることが出来ますでしょうか。
***
<舞台裏のお話>
「またフラれたか、鷹匠」
「うるせぇよ五条。つーか『また』って言うな」
「事実だろ。で、今日は何言って呆れられたんだ」
不機嫌なまま自分の教室に戻ってきた鷹匠を、顔色は変えないが僅かに肩を震わせてクラスメイト兼チームメイトが迎える。
「んー……『名前で呼ぶな』ってうるせぇから、『あやのもその内オレと同じ名字になるんだから、名前で呼ばねぇとおかしいだろうが』って言ったら完全にスルーされた」
「うっわキッツー。ツッコミも無しか……どう考えても脈ないんじゃね?」
「表現が高等すぎて伝わらなかっただけだと思いてぇけどな……祐介が言うには国語の成績は良い方らしいし」
項垂れる鷹匠に、生温く「まぁ卒業までにオトせると良いな」と励ましてやる五条の苦笑に、人の悪いものが混じる。
(多分、噛み合ってないだけだと思うんだけどなー……ま、面白いから黙っとくか)
***
初鷹匠さん夢がヘタレさんでサーセンっした^p^
ボールを追ってる時は世代別日本代表の風格で周りを圧倒しても、
オフ・ザ・ピッチでなら普通の高校生、っていう鷹匠さんも可愛いかな、と…。
授業中、ノートの端っこに『鷹匠あやの』とか書いて慌てて消したりとか、
そんな高校生らしい高校生を鷹匠さんもしてるかと思うと、笑みが…(´∀`*)
不思議と五条さんが一番腹黒くなってしまったけど、
正直世良君より三年生の方が絶対腹黒いと思ってる(・∀・)
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[短編目次]
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