live love alive/鷹匠



「あー今日も祐介可愛いわぁ」
「ノロけてんじゃねぇよ姉バカ」
「バカにもなるわよ、あんなに可愛いのよ?
 つーかアンタだって可愛いって言ってたじゃない鷹匠」
「おう可愛いぞ、後輩として。素直だし呑み込みも早いしな?
 可愛いけどあやのお前ちょっと自重しろ」

考えてもみろ。
惚れた相手が毎日他の男の名を呼んで、うっとりした目で可愛い可愛いと連呼するのを黙って見ているしかない心情を。
やるせないにも程がある。
しかも、弟だと分かっているからどうにもできない。
妬いてると云うことさえ口に出せないわけだ。

もっとも口に出せないのは、俺にも非があるんだが。
何しろあやのは高校入学以来のクラスメイトで、教室では何かにつけつるんで遊ぶ悪友で。
へたすりゃクラスの違う早瀬や何だかんだ言って可愛がってる国松よりも仲良いし、今更マジに告白したところで笑い飛ばされるのがオチだ。
ライバル校で主将を担う某親友ほど胸襟開けて話せるわけじゃないが、とりあえずシモ以外なら腹割って話せる。
……そこまでの仲になったのに、今更あやのが俺を恋愛対象として見る気がしねぇ。
自他共に認める親友であることに不満はねえが、なんか失敗したなーと正直思ってる。

それが、俺とあやのの今の距離だ。
その上でコレだ。毎日の弟デレ。祐介が高等部に上がってきてから一層酷くなった。
去年までは中等部に練習観に行ってたから、高等部では普通だったのにな……。

だからと言って祐介を恨めしく思う気もない。
アイツが高等部に来てからやっと『トマホーク』も完成したんだし、居ないと困る存在だ。
……でも、俺にとっちゃ「他の男」に違いなく。

「あー……おい、あやの」
「うん? どったの」
「祐介は今日鍵当番だから、お前も最後まで残るつもりだろ?」
「そうだねー。可愛い祐介一人で帰して、痴漢に遭ったら大変だし」

お前ら姉弟自転車通学だろうがよ。どうやったら痴漢に遭うんだよ。
全裸で自転車漕いでる奴でもねぇと無理だろ。大体祐介は男だろ。

ツッコみたいのを全力で我慢して、続きを口にする。

「それより先に帰って、疲れてる弟に晩飯作ってやれよ。
 おばさん、今日も夜勤だって朝言ってたろ?
 二人で帰ってから晩飯作るより、帰ってきたらメシすぐ食える方が喜ぶだろ」
「あっそーか、鷹匠あったま良い!」

お前よりはな。
代表合宿と部活で成績壊滅に近い俺より点低いって奇跡のバカだもんなお前。
中等部から鎌学に居るんじゃ無かったら、きっと高等部入れねぇな。

「そーだなぁ。んー、でも買い出し行かないとなのよね。
 普段は祐介が手伝ってくれるんだけど……一人じゃ重くて持てない」
「そこは安心しろ、俺が手伝う。
 どうせ部活終わった時間からお前一人で帰す気はねぇよ、危ねぇし」
「いいの? アンタ自主練は? いつも『むしろ自主練が本番』て言ってるじゃない」
「一日くれぇ問題ねぇだろ。んじゃ決まりな。祐介に伝えとくぜ」

ちゃっちゃと話をまとめてスタンドの傍を離れる。
去年以来の二人きりの帰り道、どうやって祐介の話をさせずに告白まで持って行こうか考えながら。


---

「あやの姉、やっと鷹匠さんから告白されたの?」
「うん。ほんとにもーあの男、遅いったらありゃしない」
「ま、卒業に間に合ってよかったんじゃない?
 3月まで残り少ない高校生活、せいぜいバカップルしてなよ」
「祐介アンタほんと良い子ねー」

こんな裏話。笑

12.03.05 加築せらの 拝




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