軍師の憂鬱/世良
世良右京は今、悩んでいた。
自分は本来、次の留学が決まるまでの繋ぎとして鎌学に入った。
拾って貰った恩はあるから、在籍している間は『部活のサッカー』と言えど真剣にやるつもりではあった。
だが総体を獲って、あわよくば選手権も獲ったらそれを手土産に再び留学する気でいた。
ところがどうだ。
総体ではレオナルド・シルバ率いる蹴学に敗れ、リベンジと挑んだ選手権は神奈川予選の決勝で敗退した。
このままでは手土産どころではない。江ノ高のエースストライカーにも借りが出来た。悔しいが、次の総体で頂点を獲るまで留学はお預けだ。
だがそれ以上に、世良を悩ませている人間が一人。
「国松センパーイっ、お疲れ様です!」
グラウンドでの練習だろうがスタジアムでの練習だろうが、一番近い場所まで観にくる彼女。
高校生にしては幼い、と思っていたら中等部の生徒だった。現在二年。
中等部に女子サッカー部は無いからJFL登録チームの下部クラブでやっていて、練習が無い月曜と金曜に必ず高等部の練習を見学に来る。ポジションはDF。
毎週来るからいつの間にか覚えてしまった自分に頭を抱える世良。しかし、何よりも。
「よぉ楠木。そろそろ寒くなるし、観に来る時はしっかり暖かいカッコして来いよ」
「はーい」
「また来てやがったか、熱心なこったな。オラ、今日はもう上がンぞ」
「国松センパイのプレー見たくって! あ、お疲れ様です鷹匠センパイ」
「よりによってなんで国松かねぇ……あやの、そろそろ俺に乗り換えない?」
「ちょっ早瀬さん、いくら俺でも傷付きますよ!?」
「すみませんが同じタレ目でも国松センパイの方が好みです」
(本当に、どうして国松さんなんだろう……どう考えても早瀬さん選ぶ方が趣味良いよなぁ)
中等部と高等部の違いがあるとは言え、『可愛い後輩』に群がるレギュラー陣を横目にそんな事を思う。否、もっと言えば。
(タレ目が好みなら、俺にもチャンスあるかな――国松さんが卒業したら?)
小耳に挟む会話を覚えてしまうくらいには、彼女が気に掛かっているのだ。
しかし、大きな問題がある。
(彼女が今二年だから……国松さんが卒業すると同時に高等部に上がってくる、けど)
彼女が夢中の先輩がいなくなった後で、口説ける可能性が十分ある、ということだけれど。
(そのために留学諦めて、三年生になってもここでプレーするか、どうするか……っ)
世良右京(16)、経験のない人生の春に惹かれて、サッカー人生を天秤に掛けようとしていた。
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世良って恋しなさそうだけど、敢えて青春モードにチャレンジ。
これがサッカー全く関係ないだけの子ならスルーだろうけどね!
12.02.05 加築せらの 拝
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