※紛うことなきギャグです。



「やぁセラ君」

能天気なその声は、間違えようもない、彼のリーダーの声だ。

だが、今、彼がいるのは町の中。つまり、パーティーのリーダーと行動を共にする理由は、どこにも無い。

ゆえに、セラは無言のまま、踵を返した。



「ちょっと待った」



言われて止まったならば、相手の思う壺である。セラは構わず足を早めた。



「おい!待てっての!」



追ってくる声が徐々に遠のきはじめたその時、ちらりと背後に視線を向けたセラは、己の行動を即座に後悔した。置いていかれまいとしたリーダーは、あろうことか街中でデコイダンスを踊っていたのだ!

目をそらした時にはもう遅かった。がしっと肩……否、肩当ての上に燦然と突き出た牙、あるいは角のようなそれを、リーダーがひっ掴む。セラの不機嫌さは一気に上昇した。



手で振り払おうとして、鋭い先端に視線を険しくしたセラに、リーダーはニヤリと笑った。その顔には、してやったり、と書いてある。



馬鹿馬鹿しいことこの上ないとわかっているのに、無性に腹が立った。



すると、胡散臭いほどに驚いた表情で、リーダーは目を丸くした。



「これしきのことで腹を立てたのか?」

「見てわからんのか?」



不機嫌さを隠そうともしないセラの顔から視線を外し、鍛えぬかれ、惜し気もなく衆目にさらされているその腹部をちらりと見やり、リーダーは破顔した。



「あー、立ってねぇな。俺の気のせいか。スマン、スマン」

「……」



問答無用で月光を鞘から抜き、二度斬りつける。が、肩当てからぱっと手を離したリーダーは、いとも容易くそれを避けた――再び、デコイダンスを踊りながら。



「フッ……まだまだ甘いな」



デコイダンスの足を止め、常人には理解しがたい、いや、理解したくない、ポーズを決めた。

手にはどこから取り出したのか、闇中花を持っている。



こんなふざけた輩に、いいようにあしらわれているのが、セラは本当に気に入らなかった。



……ロイがいたなら、きっと、うまくあしらい、それから性根を鍛え直してくれたろうに。



口惜しい。己の力は、こんな輩に劣るはずが無いのに。この体たらくでは、姉さんを取り戻すのにどれほど時間がかかるのか、見当もつかない。



「おいおい、本気で怒んなよ。禿げるぞ」

「何の用だ」



のってこないセラに、リーダーはつまらなそうに肩をすくめると、すっと闇中花を差し出した。

即座にぺしっとはたかれ、闇中花が地面に落ちる。



「ちょ、お前何すんだよ!花に罪は無ぇだろ!」

慌てて拾い上げ、ぱたぱたと砂を払うリーダーに、セラは躊躇うことなく長い足で蹴りをくりだし、叫んだ。



「貴様という存在そのものが有罪だ!」



セラ渾身の蹴りは、しかし軽業師のように宙返りをしたリーダーに、ひらりとかわされる。

体重を感じさせない軽やかさで着地したリーダーは、天を仰いだ。



「こ、この純真無垢を絵に描いたかのごとき俺様になんということを……!いや、確かに俺は存在自体が罪かもしれない!全身から、タレモルゲの汽水のごとく溢るるこの魅力……」



自己陶酔リーダーと距離が開いたのをいいことに、セラは己の血管が破裂する前にそこを立ち去ることにした。



付き合っていられん!



風の翼をかざし、全力で路地を駆け抜ける。



本来であれば、こんな唾棄すべき輩となど、一生のうち一刹那とても、かかわりたくない。



しかし、アーギルシャイアは、何故かあの男を狙っている。何故こんな男をと、心底疑問に思うが、――それでも、あの男といれば、アーギルシャイアに遭遇する可能性は圧倒的に高まるのだ。



だが、そろそろ、限界が近いかもしれない。



「セラ」



耳元で、声がした。

ぎょっとしてそちらを向けば、当たり前のような顔で、リーダーが笑っている。

「な……」

「誕生日おめでとう!」



その言葉に、思考が、停止した。

誕生日?誕生日だと?



言われてみれば、今日は、5月の19日だったようだ。そう、確かに俺の誕生日だ……。



あわただしい日々に埋もれ、誕生日など、とうに忘れていた。

だが、だからなんだというのか。

おめでとう、とあの柔らかい笑顔を、あたたかなぬくもりをくれた姉は、今は───。



「……貴様に、祝われる謂われはない」

「謂われもへったくれもねぇよ。お前が産まれた日だ。祝って当然だろ?」

「だいたい、何故貴様が俺の誕生日などを知っている?」

「人物列伝見りゃわかるだろ」

「じん……なんだと?」

「あ、わりわり、キャラ白……じゃねぇな、始原口伝だわ」

「しげん……?」

「あー……ったく、細けえこたぁ気にすんなよ。ほれ、みんなが待ってるから、行こうぜ」



セラは、予想外の事態に若干混乱しながらも、眉間にシワを寄せたまま答えた



「みんな、だと?……俺は、行かん」

「一生懸命準備をしルルアンタが泣くぞ?」

「……俺は、」

「ま、それでも行かないっつうんなら、石化でも麻痺でも失神でも、好きなのを選んでくれや」







「あ!セラ!!」

セラの姿をみとめて、明るい笑顔がはじけた。

ずらりと並べられた食べ物は、驚いたことに、そうとは伝えたはずのない、セラの好物ばかりだ。



「お誕生日おめでとう!!」



エステルが、じゃーん!と言いながら、取り出したケーキを見て、セラは言葉をなくした。目に飛び込んでくる、おめでとう!の文字。そして。



「でもボク、びっくりしちゃったよ!セラってば、しっかりしてるなーとは思ってたんだけど」



それに偉そうだし、と続けた言葉は、ケーキに目が付けになってしまっているセラの耳には、届かなかった。



『セラ、40歳の誕生日おめでとう!』



そう書かれたケーキは、とても可愛らしく、華やかだった。



「まさかセラがもう40歳になるなんてねー。ボクの倍以上……どしたのさ?」



「誰が40歳だ!!」

額に青筋が立っている様を見て、エステルは息をのんだ。

「え!?だだだ、だって、リーダーが……えぇぇ!?」

蒼白になったエステルは、はっとしてリーダーの居た場所を振り返る。しかしもう、そこには影もかたちもない。

不意に、小さく風が吹いた。見れば、開け放たれた窓を背に、リーダーが爽やかな笑みを浮かべている。

退却路を確保したリーダーは、きらりと白い歯をのぞせた。



「まさか本気にするとは思わなかったんだよ+」





「だ、だからそんなはず無いって言ったのに!なのにあんなに力説するから…!!」



ぷつん、と何かが切れる音がした。



「貴様ァァァ!!斬る!絶対に、斬る!!待てッ!!!」



みんなのリーダーは風のように窓の外へと身を踊らせた。セラは抜刀し、叫びながらそのあとを追っていく。



「二人とも、お料理が冷めちゃう前に帰ってきてねぇ」

ルルアンタは窓の向こうへ手を振り、それから、ケーキに手をのばした。



「もぅ、悪戯っ子なんだからぁ」



そう呟きながら、問題の、40歳と書かれた部分をクリームで覆う。



「これでよし、と♪」



先ほどのセラの形相を思いだしながら、悪戯っ子で済むのかなぁ、とエステルは胸のうちで呟いた。



「追いかけっこが終わったら、のどが渇いてるよねぇ」



ルルアンタが、いそいそとグラスを用意する。きっと、飲み物の準備ができるころには、二人は帰ってくるだろう。



「それにしても、セラ、絶対気づいてないよね」



頭を指差し、エステルがぼそりと呟いた。言いながら、なにやら笑みがもれてくる。セラはこれでもかという位に怒るのだろう、とわかってはいても、日に日に打ち解けてきてくれているのも、事実だった。



「可愛かったねぇ」

にっこりと、ルルアンタが笑う。



髪に闇中花を挿した大の男を、可愛いと評すルルアンタも、おそらく挿した張本人であろうリーダーも、ただ者ではない、と改めて感じたその瞬間。



「ただいま」
ただ者じゃないリーダーの笑顔が、帰還を告げた。







END.





 初めてこの作品を目にしたその日から。わたしの腹は捩れ続けています。
 何度読んでも、おかしい。可笑しい。大切なことなので二回言いました。
 突っ込み所が多過ぎてもうゲラゲラ笑うしかわたしにはできません。
 セラの御髪に貴重な闇中花を挿したリーダーは本当に罪な男ですね。タレモルゲの汽水も蒸発しそうです。
 そして一向に動じないルルアンタの強さ、エステルの愛らしさも小粋なアクセントになっております。
 リーダーの所業はもはや神の域ですね。きっとパラメーターはカウンター・ストップしているのに違いない。
 四十歳のセラも、アリだと思います。

 理雨さん、素敵な作品をありがとうございました!




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