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「姉ちゃん。」


ウィッシュ、と声をかける直前にライトニングは背後から声をかけられた。出鼻を挫かれた感じがした彼女は後ろを振り返りそのアフロ頭を少し睨む。


「あんちゃんは俺に任せな。」

「サッズ。」

「わあってるよ。姉ちゃんが言いたいことは。」


いいから俺に任せときなとサッズはずんずん先に進んでしまったウィッシュの背中をライトニングの代わりに追いかけ始める。


「ウィッシュ!!」


サッズは遠くにいたため少し声を張り上げると、彼は肩をすくませて振り返った。


「サッズ……。」

「おめえ隠し事へったくそだな。」


余計な事は言わず、単刀直入に切り出した。遠まわしに言ったところではぐらかされるとサッズは解っていたからだ。

サッズの隠し事と切り出した内容に、ウィッシュは苦笑を零す。自分でも、あからさまであったと自覚しているのだろう。


「俺、ホープの母親を止めてあげられなかったんだ、戦場に行くっていうのに。」


軍人であったウィッシュだからこそ、一般人であるノラを守らなければならなかった。なのに、ノラから言われたホープと一緒にいてあげてなんて優しい言葉に甘えた。ノラへの死に目を逸らした挙句、ホープへの気持ちを自分に向けようとしても、恐れてしまった。


「結果、ホープがスノウを恨んで、……最低すぎる。」


自嘲気味に零された笑み。自分自身を嘲るように、情けなく眉を下げた。


「ほっとしたんだ、俺。ホープに恨まれなくてすんで。」

「誰だって、身内から恨まれりゃ辛いだろう。」


そうじゃない、とでもいうようにウィッシュは頭を振った。


「それもあるけど、きっと俺もどこかで思ってたんだ。」


スノウが、ノラを殺したも同然だって。

前を見据えたウィッシュの表情は見えなかったが、その様子は泣いているようにも思えた。実際、浅瀬のような瞳からは雫が零れてはいないのだが、彼の心が泣いているようだとサッズは感じる。


「スノウが、“ノラ”のリーダーだから、責任はスノウにあるんだろうって、逃げてたんだ。」


誰かのせいにするのは一番手っ取り早く一番簡単で一番酷い行為であると、知っていたはずなのに。いざその局面に立たされれば、流されてしまった。

アイツが悪いんだ、アイツがいるから、

一人に責任を押し付けて、それでいて相手を傷つけるなんて、そんな酷な事をしてしまったのだ。


「だからバルトアンデルスの時だって……   

「やっぱり、あん時なんかされてたんだな。幻覚かなんかか?」


しまった、と口を押さえても時既に遅し。しっかりとサッズの耳には届いており、そこを突っ込まれる。

隠してもしょうがないかと諦めたように溜息を一つ吐いて再び口を開いた。


「罵ってくれた方がまし、そう思ってたけど…いざ罵られてみると、その方が一番きついんだって、再確認させられた。」

あれがバルトアンデルスの罠だってわかってはいるが、言葉の暴力は例え嘘であっても深い傷を残す物だ。大人だろうが子供だろうが、人間である以上心に傷が着かないわけがない。


「たった一人、守れなかった。守りたかった人の大切な人を殺してしまった。」

世界からたった一人いなくなってしまっただけなのにウィッシュの世界はこんなにも不安定になってしまう。

それだけ人の命は重いものだ。しかし今、コクーン市民は平気で下界へパージするのを辞めはしない。

人が死ぬ、ということを軽視しすぎている。


「俺だって、守れなかった内の一人さ。俺だけじゃねえ。ここにいる奴ぁ、みんな守れなかった人がいる奴等ばかりだ。」


静かにウィッシュの言葉に耳を傾けていたサッズは、悔しそうに拳を握りしめる。

彼も、最愛の息子をルシにされ、そして自分の手でクリスタルにしてしまったものだ。

ライトニングとスノウだってそうだ。セラという存在を守る事が出来なかった。彼女もまた、クリスタルになり永遠を手にいれてしまったのだから。

一度は絶望し、生を諦めた事もあった。

でも、微かな希望の光が見えた気がしたから、もう一度生きて、足掻いてみようと思えたのだ。


「あんちゃん、言ってたじゃねぇか。

「前向きに逃げる」って。

そうやって一人で考えていても、結局は被害妄想でしかねぇんだ。考えるなら、ポジティブに考えろや。」

「サッズ……」

「お前ぇ一人が寂しくて悲しくて辛い訳じゃねぇってことさ。」


一人だけ、使命が違う事を二重の意味で励まされた気分だった。

そうだ。一人だけで迷っていてもしょうがないことだ。

ルシの使命が違うと言われ、更に心細くなったのはやはり皆と違う、というありがたくもない特別扱いされたから。皆と一緒なら、なんとかなったかもしれない。そう思えていたのに、バルトアンデルスの言葉でその薄っぺらい信頼感が呆気なく崩れ去る。

それがとても不安だった。

社会から逸脱された存在が複数いた時、同じ境遇に少なからず安堵する。それと同じだ。

だが、彼等は彼等で、自分は自分。結局は他人は他人でしかなりえないのだ。

自分が、どうしたいのか。どうあるべきなのか。

他人に流されるな、意志を持て。

決めるのは自分自身。


「サッズ。」


先程よりも、凛とした声音だった。

全てが解決したわけではない。後回しにした問題が後に自分を苦しめるかもしれない。

それでも、ウィッシュはしっかりと前を見据えることが出来た。


「ありがとう。俺も前向きに逃げることにした。」

「その意気だ!」








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