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墜落した艦から投げ出されるようにして横たわっていた五人の内一番最初に起き上がったのはライトニングだった。


「ウィッシュ…、おい、」


ウィッシュの閉じられた瞳を見て、あの時のウィッシュを思い出してしまう。

ビルジ湖でクリスタルの格子に絡めとられたウィッシュ。あの美しくも儚く、折れてしまいそうな存在におもわずどきりと心臓がはねた。

頭を打ったのか、痛む米神を押さえながらライトニングはウィッシュを起こそうとその逞しい肩を揺する。


「ライト、ニング…、」

「無事か。」

「ああ、お前は?」


覚束ない思考を覚ますように頭を緩く振ってからウィッシュはライトニングを改めて視野に入れる。特に外傷がないのを確認すると安堵したように顔を綻ばせた。

しかしウィッシュの表情から笑顔が消える。ライトニング越しに見えた影に目つきをきつくした。

周辺を見回っていたであろう軍用のゲパルト烈爪が数匹、獣の性を隠しきれないように飛び降りてくる。

振り返ったライトニングも冷ややかな視線を湛えたままブレイズエッジを抜いた。


「ライトニング、無茶はするなよ。」

「……来るぞ。」


分かりきっていることを聞いてくるなとでも言わんばかりに返ってきた呆れの雑じった言葉に肩をすくめる。

背中を合わせながら前を見据えていれば、両脇にサッズとヴァニラが武器を手に参戦してくる。その姿に安心する。

数が多かったモンスターも四人の力によってなんとか撃退することに成功した。しかしそれも一時的なものだろう。すぐさま瓦礫の影に身を潜めながらあたりを詮索しにウィッシュは動き出す。それはもう習慣と化しているもので、ライトニングがそのまま歩き出してサッズとヴァニラを置いていき、ホープがそれを追いかけているなんて想像もしなかった。

暗い夜道をこれ幸いと思いつつ辺りを見回してみれば、あの軍用モンスターのほかにはこの辺の調査をしていないのか何もいない。随分と手ぬるいではないかと考えたが、すぐにそれも打ち消される。

彼方に見えた人工的な光りが空を突き抜けて動き回っているのを視界に入れたウィッシュは小さく舌打ちし、声が聞こえる程度まで近づいた。

先程の軍用モンスター、あれに発信機でもついていたのだろうか。数名のPSICOMは地図を取り出して印を付けていく。あっちだ、と指示した方角を見てウィッシュはそっと身を引いてパルムポルムの方角へと急いだ。


「このルートで大丈夫なんですよね?

ライトニングさん、このへん詳しいんですか?」

「軍の任務で何度か来ている。まあ、私よりもウィッシュの方が詳しいがな。」

「任務って……パージじゃないですよね。」


聞こえてきた声に、小さく溜息を吐いた、勿論安心故のだ。
見知った二人の姿を目視して飛び回っていた瓦礫を降りるために右足を踏ん張った。


「パージの主導はPSICOMで、俺達警備軍の管轄じゃないんだ。」

「ウィッシュ兄さん!」

「状況は?」


驚いたホープに小さく笑って、すぐにライトニングへと面を向ける。その眼差しは真剣だ。


「さっきのゲパルトに発信機がついていたらしくPSICOMがうろついている。見つかって戦えば、その分ルートを辿られて待ち伏せされるのが落ちだな。」

「そうか。」


苦虫を噛み潰したような顔で立ちふさがる瓦礫の山を睨みつければ、控えめなホープの声が空気を裂く。

「……ウィッシュ兄さん、PSICOMって   

「軍の組織は、大きく二分されているんだ。」


聖府直属の公安情報司令部のPSICOMと、その他の大勢の警備軍だ。

ライトニングが瓦礫に足をかけ具合を見ながら進んでいくのをホープはじっと見つめていた。


「私とウィッシュは警備軍で、同じボーダムの連隊にいた。」

「…待ってください、パージに関係ないのになんであの場所に?ウィッシュ兄さんもなんでスノウと?」

「乗りこんだ。」


言い切ったライトニングは、ウィッシュをはっきりと射抜いていた。その視線はなぜスノウと一緒にいたのかを問われているようだ。否、問われているようなのではなく問われているのだ。
降参、とでも言うように目を伏せてウィッシュは口を開く。


「パージ前日、俺は自宅に帰ったんだ。そしたらボーダムで下界のファルシが見つかってパージ政策が始まるって言うんで、ホープ達を探しに急いで戻ったんだ。スノウとはそこで一緒になった。」


そしたらセラちゃんがファルシに囚われてるって聞いて、と続けたウィッシュにライトニングもその日を思い返した。

スノウから聞いたセラが囚われたという事実。唯一の妹を救うために、ライトニングはパージ列車の乗車を志願した。そこでサッズと出会ったのだ。セラを閉じ込めた異跡が下界に運ばれる前に救い出す必要があった。パージ列車に乗り込めば救う機会があると考えたからだ。


「妹さんを助けるために自分から……。すごいですね、僕には絶対できないです。」

「できるできないの問題じゃない。やるしかなければ、やるだけだ。」

「強いからそんなこと言えるんですよ。」


小さくなった身体に苛立ったような視線を投げてライトニングは行ってしまった。瓦礫の向こう側へと見えなくなった姿をホープは縋るような眼差しで呼びかけたが、彼女が振り返ることはない。

誰かを助けるために動ける強さを持つライトニング。それをホープは羨んだ。


「ホープ、まずはやってみろよ。やらないでそうやって後悔してたら、悔しくて悲しくてしょうがないだろ?」

「ウィッシュ兄さん!?」

「ヴァニラ達がもうすぐ来るから、それまで待ってろな。」


しない後悔よりも、した後悔をしろよ。そう言ってウィッシュもライトニングの後を追う。否、ライトニングを追ったのではなくPSICOMの情報網を乱すために動く。







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