**.恋せよ 花舞え.**
傷ついた身体が重力をもろに受けている衝撃で、やっとの思いで目を開いた。
私より随分若いこの青年の腕が、ぶら下がる私と彼を支えてくれているのだ。
いくら青年が屈強な身体を持っていても、人を2人も支えているのは限界なのだろう。
上から声が苦しそうに呻いている。
「あの子達を……お願い……。」
出てきたのは母親としての使命、義務、いや、想い。
まだ幼い自分の息子と、息子同然の青年を思い浮かべて出てきた言葉だった。
死が怖い。怖いものだと思っていた。
いや、それは今でも変わらないわ。
だけど今こうして私の身に死が迫っているというのに、心は穏やかだ。
気がかりなのは、あの子達だけ。
自分の心配ではなく、あの子達の心配をした私に青年は叱咤した。
「守る」といってくれた彼には、私の命を背負わせてしまうけれど。
大丈夫、彼なら、きっと。
宙に投げ出される感覚が全身を包み込む。
どこかで、あの子の声が聞こえた気がしたの。
夫と仲を違えてしまった実の息子と、そんな二人を取り持つように現れた青年。
いつしかウィッシュ君にホープも懐き、夫も何かと気にかけるようになっていった。
それは、息子がもう一人増えたような錯覚を起こす。
ウィッシュ君にも母さんって呼ばれてみたいわ。
冗談を隠し味程度に含んで言った言葉に真っ赤にさせたウィッシュ君を見て本当に愛しく思ったのは彼が来て二年目の春だったかしら。
養子として迎え入れようと夫と相談すれば、ウィッシュ君は反対した。
頑なに話題に上げることをも拒んだ。
ウィッシュ君なりの優しさだと気付いたのは三年目の秋。
怪我をして入院したウィッシュ君のお見舞いに行った時、そんな顔させたくなかったのにって泣きそうな顔で確信した。
ウィッシュ君はパルムポルムに来てすぐに軍人になった。
いくら治安がよくたって戦場に身を置く以上危険は伴う。
一度戦争が始まれば命の保証はされない。
いつ死ぬか分からない自分を家族に迎えて、自分が死んだ時に泣いてほしくなかいからウィッシュ君は養子を受け入れなかったのよね。
彼が来て四年目の、去年の冬にボーダムで花火大会があるってホープに言ったら、即答で行く!て答えたっけ。
ウィッシュ兄さんに会えるんだ、ってはにかんだ息子は本当に嬉しそうで瞼の奥に焼きついている。
忙しい軍人であるウィッシュ君はなかなか休暇を取れずに、会うのは半年振りだったわね。
折角だからと夫を誘っても大事なプロジェクトで抜けるわけにはいかないと残念そうに話していた。
それが、ホープにとって許せなかったのかもしれない。
落ちる身体にかかる重力を感じながらゆっくりと目を開く。
こちらに手を伸ばすホープと庇うように前へ出たウィッシュの姿を見たような気がして私は微笑んだ