カロライナジャスミン

今日もコスモス軍の戦士たちは、カツヤと我等が守るべき神――コスモスがお留守番の日がやって来た。

カツヤによる満面の笑みで見送りをある者は頬を染めて、またある者は撮影機を持って、ある者はこれが永遠の別れであるかのように涙ぐむ者もいた。なんて大げさな。

さて、彼らは時々聖域の外まで足を運ぶが、それは決してピクニックをしている訳ではない。イミテーションが時折この聖域周辺に迷い込んでしまうことが多々あるのだ。それを偵察しに聖域の周りをぐるりと各々が見回りに行く。

「ふぅ、ウォーリア、粗方片付いたんじゃないか?」
「……」

辺りを見回し、気配を探れば知った輝きしか周囲にないことが確認できる。それを感じ取ったウォーリア・オブ・ライトも、厳しい顔を少しだけ緩めた。

「ああ、この辺は問題なさそうだ。」

「おーい!こっちもオッケーだったぜー!」

子供のように手をぶんぶん振り回すバッツとジタン(一人はまだ子供の分類に入る)が、スコールを引っ張りながら駆け寄ってくるのが見える。地に足がついてないがはたして大丈夫だろうか。

「こっちも大丈夫だ。」

また声がして、振り返ればクラウドとセシルが、後ろでオニオンナイトの頭の装備についている毛の塊に顔を突っ込んではサンダガを華麗に避けているティーダと、それをうらやましそうに見ているティナには目もくれずに優雅に歩いてきた。咄嗟に育児放棄という文字が浮かんだが、それを振り払うように全員の顔をウォーリアは見回した。


「さぁ、帰ろう、カツヤとコスモスが待っている。」

皆が静かに、しっかりと首を縦に振り戦士たちは聖域にと帰っていった。







「おかえりなさー!」

コスモスの膝に肘をついて身体を左右に振っていたカツヤが戦士たちに近づいて、花が開いたような笑みを零して迎えてくれる。そんな些細なことではあるが、戦士たちの心の拠り所であるカツヤに、戦士たちはやはり心がどこか落ち着いた感覚になるのを感じた。そう、これはまるで家に帰って時に迎え入れられる母の笑顔に酷似しているのを根底では気が付いているのかもしれない。


「ああ!!!!!」

するとカツヤはいきなりジタンを指差して吃驚した様子で彼の尾てい骨に生えてる尻尾を凝視した。

「しっぽ!!!!」

ててて、と駆け寄ったかと思えば、尻尾の周りを、ジタンの周りをくるくる回りながらカツヤは歌い始める。

「わたーし
しっぽしっぽーしっぽよ
あーなたーのしっぽよ

すきといーう、かわりにっ
しっぽがゆれるのっ」

ジタンの周りをくるくる、お尻をふりふり、時々人差し指を天に伸ばし、踊りながら歌うカツヤに、周りはその姿に頬が緩み始めた。

「しっぽのきもちよっ!」

ぱ!と効果音がつきそうな、否効果音だけではなく、彼だけがスポットライトを浴びて幕がおちる、そんな幻想さえ見える。


歌い終わったカツヤは、自分のお尻を確認しはじめ、そのまま良く見ようとしているのかくるくる自分ひとりで回り始めた。

「どーして、おれにはしっぽないの?」

ちょっと怒り気味に、拗ね気味に、でも本当に不思議そうに聞いてくるカツヤの瞳はジタンに真っ直ぐ向いている。

「んー、それはな…、」

少し顎に手を当てて考える素振りをしたジタンは、膝を曲げてカツヤと視線を合わせる。

「俺は俺で、カツヤはカツヤだからだよ。」
「う?」

全然分かっていないカツヤに、ジタンは紳士的な笑みを浮かべてカツヤの頭を撫でた。

「俺は、俺一人だから、俺という存在を大切にできるのさ。」

「んと、じーちゃんが、ひとりだから、…う??」

「ようは、カツヤは一人しかいないんだ。」

それはわかるかい?とまるでレディを前にしたときのように甘く惚れ惚れするような声音でカツヤの耳を刺激する。

だがしかしそんな魅了する声音でさえ、この幼児には無意味である。カツヤは頬を染めるどころか、幼い眉をきゅ、と額によらせていた困った顔をしていた顔を、それならわかる!とにぱりと笑えば、逆にこっちが頬を染め上げてしまう。

「うん、カツヤが、カツヤを大事にしなかったら、誰がお前を大事にするんだ?」

そう、自分のことは、自分で大事にしてあげなければ一体誰が自分を大事にしてくれるだろうか。これは根底で培われてきたであろう経験がジタンの思考の源であると言えるだろう。女癖の悪い彼は、いつだって女を“愛してきた”。

昔の記憶は、今は一切と言っていいほど何にもないが、元の世界でも今と同じように女の子が好きだった気がする。いや、好きなんだろう。だから、レディと戦うのも嫌だし、レディは守るものだし、レディは愛するものだと感じていた。そこでふとジタンはある考えに思いついたのだ。


では誰が自分を愛してくれる?

誰が自分を大事にしてくれる?

咄嗟に庇ってくれる人はいるだろうか?

自分が傷ついてまで、俺を庇ってくれる誰かがいるだろうか。


頭の中を横切る仲間たちの顔がちらつくが、彼らにだって帰る場所も、待っているやつらもいる。それに、彼らに庇われるなんて、そんなことできない。自分はいつだって守る側にいるのだ。

そんなちっぽけな自尊心が横切る仲間達の邪魔をしていった。


そう、自分を愛せるのも、大事にできるのも自分だけなんだ。そうカツヤに教えた。

「んっとね、みんなー!」

誰がお前を大事にするのかという質問には、予想外の回答が返ってきた。俺の話し聞いてた?難しかった?とつい口に出てしまいそうだったのをなんとかこらえる。

「……なんで?」

「だってね、おれみんなすきだから!」

すきだから、みんなはカツヤを大事にする?いまいちよく飲み込めない。どういう意味だ。

「みんなね、おれにやさしーの!」

ああ、この質問の意味がやっと理解できたよ。なるほどね、こいつはやってくれる。

「…それもそうだな、お前は皆から大事にされてるな。」

カツヤの頭を乱暴に撫でてやれば、カツヤはしゃがんでいたジタンの胸に飛び込んだ。

「じーちゃんのこと、おれだいじにするよ!」

わしゃわしゃと撫でていた手がぴたりと止まった。

「おれがだいじにするのー!」

えへへ、と笑いかけたカツヤが、今度は無反応のジタンの頭を撫で始める。いいこいいこ!なんて言ってる内に、物思いに耽っていたジタンが漸く覚醒する。

俺が大事にする、なんて、この俺でも使ったことのない気障でドロドロに甘い台詞だ。まさか、言われる側に立つなんて思ってもみなかった。やばい、ひどく顔がにやける。

嬉しくて、口角が上がるのを我慢するうちに、目にも幕が貼り始めて。必死に上を向いてそれを誤魔化す。

「あー…あーあ、カツヤ、俺を大事にしてくれな?」
「うん!!」

ぎゅ、と抱きついたカツヤに縋りつくように、ジタンもカツヤを抱きしめた。




カロライナジャスミンを銜えて


(誰かを愛するのにも、理由はいらない)


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