美香から告白された。
ついさっきのことだ。それも、放課後の体育館裏というベタベタなシチュエーションで。

 美香とはなかなか良い友好関係を築いていたと思う。
ひろし、たけし、美香、そして俺。この四人でよく遊んだし、学校でも所謂『同じグループ』に所属していた。

全く話した覚えもない女子からそういう好意を受け取る時は、「気になっている人がいる」だの「今は誰とも付き合う気はない」だの適当な理由をつけて断ればよかった。
だから、同じグループの美香から告白を受けることによって、今の関係が崩れるのは嫌だなぁ、と、昨日呼び出しメールを読んだ時、そう思った。


 そして、今日の放課後。
俺は約束通り体育館裏に向かった。美香は 既にそこで俺を待っていた。
風が彼女の髪やスカートなんかを揺らして、いかにもな雰囲気を醸し出していた。
美香はなかなか綺麗だし、このまま付き合ってしまうのもいいかもしれない、なんて都合のいいことも考えたりした。


「美香、お待たせ」

とん、と彼女の肩に手をのせる。彼女がこちらを向く。そして笑う。
やっぱり整った顔をしている。そう思った時だった。


――あの感覚をなんと表現したらよいのだろう。

顔は笑っているのに目が笑っていない、を初めて実感した。
そうだな、『意味がわかれば怖い話』を理解してしまった時の感覚に近いかもしれない。

とりあえず、美香が恐ろしかった。
比喩じゃなく、このまま喰われてしまうのではないかと思った。

それから後のことはあまりよく覚えていない。
OKの返事をだすことも、きっぱりと断ることもできないまま、なんとか美香から逃れようと必死だった。

気がつけば、家の近所の公園にいて、なんとなく寒気がして、どうしたらいいのかわからないままにひろしに電話をしていた。
 滅多にしない俺からの電話に、彼は少し驚いたようだったけど、何も言わずに俺の他愛ない話を聞いてくれた。
美香のことを話すのははばかられた。
どうしてかって聞かれても、答えられないけど。

十五分ほどひろしの声を聞いていると、だんだん落ち着いてきたので電話を切った。
ありがとうとお礼を言うと、またなにかあったら電話してくれ、と声をかけてくれた。いい友達を持って救われた。
 日が 沈みかけていた。だんだん暖かくなってはきたものの、まだまだ夜は冷える。
はやく帰って炬燵にでも入ろう、とベンチから立ち上がった時だった。


「ねぇ、卓郎」


背後から向けられた、ソプラノ。思わず動きが固まった。
頭のてっぺんから身体のなかに冷たいものを流し込まれるような感覚に襲われる。指先が冷たくなるのがわかる。
ゆっくり首をまわす。そこにいたのは、思った通りの人物だった。







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