最近卓郎の様子がおかしい気がする。
違和感を覚えたのはひどく怯えた様子で卓郎から電話を貰った次の日からだった。
確かに仲良し四人組のよしみで卓郎と二人で話すこともあったけれど、最近それが頻繁になった気がする。
それに、なんとなく美香を避けている印象を受けた。
彼女が卓郎に近づくと必ずと言っていいほど彼は僕かたけしに話しかけにくるのだ。
そして彼は決して美香の方を見ない。まるで美香と目が合うと石にでもなってしまうかのように。
風の噂によるとどうやら美香が卓郎に告白したんだとか。
それが本当だとしたら、卓郎は彼女を振った罪悪感と気まずさから目を合わせないようにしているんだろうか…。
もやもやした気持ちで帰り支度をしていると、美香がいつも通り卓郎を迎えに来た。
「ひろし君、卓郎は…?」
「卓郎はたけしともう帰ったよ」
そっか…と小さく呟いてしゅんとしている美香は普通の女の子そのものだ。
何故卓郎は彼女を怯えた様に避けるのかますますわからない。
「卓郎となんかあったの?」
試しに聞いてみたけれど美香は答えずに俯いたまま。
仕方がないので帰ろうと席を立ったとき美香が唐突に喋りだした。
「いいなぁ、ひろし君は卓郎とずっと一緒にいられて」
「え?」
「だってクラスも一緒だし」
美香の言葉の真意が掴めなくて眉を潜める。
「おんなじクラスなら卓郎も一緒に帰れたのにー…なんて、ね」
そう冗談ぽく言って顔を上げた美香の目はちっとも笑っていなかった。鳥肌がぞわりと身体中に立つ。
「いっそ男の子だったらずっと一緒にいられたかな」
「そ、うだね」
卓郎が何故彼女を避け始めたのかだんだんわかってきた。こんな風に言い寄られては避けたくもなる。
「…ねぇ、ひろし君」
猫なで声で名前を呼ばれて体がびくっと揺れた。
「卓郎ね、多分私と付き合ったら四人の関係が終わっちゃうって思ってるんだ。だからひろし君からそんなことないって言ってくれない?」
違う。卓郎はそんなことで断った訳じゃない。
そう言いたかったけれど怖くて口が言葉が続かない。
「…いいでしょ?お願い」
やっとのことでうん、と返事をすると、さっきまでの美香はどこえやら無邪気に喜んで『よろしくね!!』と念を押すと帰っていった。
美香がいなくなった途端力が抜けてへなへなと床に座り込む。
卓郎に、伝えなきゃ、と思いつつしばらくその場を動くことができなかった。
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