泣きそうだ。畜生、泣いてない、泣いてなんかないぞ。泣きそうなのは確かだけど、断じてまだ泣いてない。くそ、みんな嫌いだ。

畜生、畜生。呟きながら帰り道を歩く。唇を強く噛んでみるけど目頭が熱いのが治まらない。拳を目に当ててごしごし拭いたら、濡れた感触がした。

「うぅ…泣いてない、泣いてない…」

もう誰に対しての言い訳なのかも分からないが、とにかく俺は泣いてないんだ。そう主張し続けないと、涙が止まらなくなってしまう。
歩きなれた道を、ひたすら自陣に向かって歩く。こんな時は空を飛べる暗闇の雲やクジャがちょっと羨ましくなる。だって誰にも見られずにあっと言う間に帰れる。俺も空を飛べたらいいのに。そうしたら、思いっ切り泣けるのに。
もう駄目だ。

「うぅぅう…泣いて、ないぃ…」

もう歩けない。
その場に蹲って、膝を抱える。ひざ小僧に当てた目から結局堪えきれなかった涙がボロボロ落ちた。
情けない。俺がこんなに弱くて泣き虫で馬鹿だから、親父もきっと俺が嫌いなんだ。別に親父に嫌われたっていいけど。

「もうやだ、もうやだ、コスモスの奴らなんかだいっきらい」

何が「何故そんなにジェクトを嫌うんだ」だ、馬鹿。嫌ってんのは俺じゃねぇよ、馬鹿。何が「話し合えば分かる」だ、馬鹿。俺の話聞いてくれた事なんかねぇよ、馬鹿。
嫌いだ大っ嫌いだ、コスモス軍のお節介野郎。名前呼んでんじゃねぇよ当て付けか畜生。

「うっうっうっひっく、うぅぅぅ…」
「泣き虫見っけ!」
「うっせぇ黙れピエロ…」
「何をしている」

道の真ん中で蹲る俺を見付けたのは、ピエロとゴルベーザだった。最悪だ。こいつらは一々ちょっかいをかけてくる。どう見ても取り込み中なんだから放っとけよ。

「向こう行けよ…」
「なーに泣いてんの?なーに泣いてんの?分かった!またパパと喧嘩したんだ!」
「こんな所にいては危ないぞ」
「うっさい」

どうせならエクスデスかクジャが良かった。というかこいつら以外なら誰でも良かった。エクスデスは何も言わずに城まで連れ帰ってくれるし、クジャなら頭を撫でてくれる。それか皇帝かアルティミシア。あの二人は良く言うことを聞いていい子にしてれば優しくしてくれる。あと他の奴らなら俺を見ても無視するだろう。
とにかく、煩く口だししてくるこいつら意外なら誰でも良かったのに。最悪だ。選りに選ってなんで二人掛かりで来るんだ。

「泣いていても伝わらんだろう。父親が嫌いなのは分かるが、親というものは…」
「泣ーき虫!泣ーき虫!」

うっさいうっさいうっさい!
ゴルベーザもケフカもコスモスの奴らと同じ位大っ嫌いだ。ぎゅうっと縮こまって、ひざ頭に目を押し当てる。何にも聞かないぞ、っていう意思表示に。
そのうち反応しない俺に飽きたのかケフカの声がしなくなって、重い重い溜め息をついたゴルベーザが俺の頭をポンポンと叩くように撫でると、一言言った。

「早めに帰ってきなさい」

硬質な鎧の音が遠ざかっていく。その音が完全に聞こえなくなってから、そっと顔を上げた。
誰もいない。
ホッと息をついて、また膝に顔を埋めた。

「だいっきらいだ、みんな」

自分に言い聞かせるように呟く。

あの二人は追い払ったけど、確かにいつまでも此処にいるわけにはいかない。コスモスの奴らに見付かると面倒だ。しょうがないからズルズルと立ち上がって、でも前を向いたらまた蹲ってしまいたくなった。
こんなだだっ広い寂しい場所に一人ぼっちな自分、なんて考えちゃったらもう駄目だ。
だって此処には親父がいるのに。親父が生きてるのに。なのに俺は一人ぼっちでこんな所で泣いてる。もうやだ。みんな大っ嫌い。
今度こそ、泣いてないなんて言い訳出来ないくらいに涙が溢れ出る。

「うっく、うぇ…」

歯を食いしばってるけど嗚咽が止まらない。
もう一度拳でごしごし擦ってから、俺は最終手段を使う事にした。
こんな時どうしたらいいか、俺は知ってる。

辺りを見回して集中する。目当ての気配を見付けたら、来いと命じる、それだけだ。その場で少し待てば、望んだ通りのものがやってきた。
ソレは俺の前に立つと、でっかい体を屈めて俺の顔を覗き込む。泣いているのに気付くと、ゴツゴツした大きな手でそっと涙を拭ってくれた。その仕種にまた涙が溢れる。

コイツは俺を絶対に傷付けない。俺の望んだ通りに優しくしてくれる。俺だけを見てくれる。俺だけのものでいてくれる。本物みたいに俺を嫌わないし、嫌がらないし、面倒臭がらないし、鬱陶しがらない。
俺だけの親父になってくれる。別に、別に、親父に嫌われたっていいけど。
呼び寄せた親父のイミテーションに抱き着けば、イミテーションは大きな手と長い腕で抱きしめ返してくれた。俺の望んだ通りに。望み通り、父親らしい仕種で。
そのまま暫くじっとしていたら、親父のイミテーションは俺の頭を撫でた後、手を握った。もうそろそろ帰らなくてはいけない。
イミテーションに手を引かれ、二人並んで道を歩く。

「親父、あのな、今日コスモスの奴が俺にヒドイこと言ったんスよ」
「ケフカは俺の嫌がることばっかする、だから友達がいないんだ」
「セフィロスの刀触らせてもらったんだ、でも長すぎて上手く使えなかった」
「ティナがさ、話し掛けても無視するんスよ」
「俺ジェクトシュート出来るようになったよ。もう親父と試合やっても負けないくらい強くなったから、今度試合してよ」
「親父、親父、ねぇ、父さん」

イミテーションは喋らない。一回喋らせてみたけど、ひび割れた声は親父っぽく無いから止めた。
イミテーションの横顔を眺めて、繋がれた手に視線を移す。大きくて、ガサついた傷だらけの手。イミテーションのものは硬くて冷たい。本物は暖かいのかな、もっと柔らかいのかな。一度も触ったことの無い本物に思いを馳せたら、また涙が零れた。

城に帰ったら、イミテーションに膝枕をしてもらおう。俺を絶対に嫌わない、俺だけの親父に目一杯優しくしてもらおう。そうしたらまた明日も戦う元気が出る。
きっと俺は手と同じで硬くて冷たいイミテーションの膝で一杯泣くけど、その間中イミテーションに頭を撫でさせればいい。

繋いだ手に力を込めて、イミテーションに命じる。命じられたイミテーションは振り向いて俺の頭を優しく撫でる。俺は凄く満足した気分になって、また帰り道をイミテーションと共に歩きだした。





2011/06/20 01:05
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