「何それずるい!ずるいよ〜」

立ちはだかった茶髪の青年は、コスモスの戦士達の顔を見るなり涙目でそう叫んだ。正確には、武器を構えるスコールと、その両脇を固めたゼルとセルフィを見て。
青年の大声にスコールは普段から寄っている眉間のシワをさらに深め、苦い気持ちを飲み込んだ。今さら見慣れたそれに頓着することは無い青年の声が荒野に響く。

「ずるいよスコールだけ〜!僕もそっちが良かっ、うわぁ!」

唐突に現れた人物によって、青年の言葉が遮られる。突き飛ばされるように転んだ青年の後ろには、凶悪な目付きをした男と、凍てつくような表情で腕を組む女が立っていた。

「サイファー!」
「キスティも何やって〜ん?」

後から現れた男女に瞳を輝かせたゼルとセルフィを見て、「ひどいよ…」と茶髪の青年、アーヴァインが大袈裟に泣きまねをしながら立ち上がる。そしてサイファーの隣に立つと、再びスコールに目を向けた。

「異議あり異議あり〜!」
「…何がだ」

心底面倒臭いとでも言いたげなスコールに気分を害した様子も無く、アーヴァインが続ける。

「何そのメンバー!僕だってゼルとセフィと一緒が良い〜」
「あぁ?んだとヘタレ鉄砲打ち」
「ほら見てよコレ!この極悪な顔!冷たい視線!僕可哀相すぎるよ〜」
「失礼ね」

およよ、と泣きまねをするアーヴァインに、キスティスが眉をひそめ、サイファーは顔を歪める。サイファーは舌打ちをしてもう一度アーヴァインを突き飛ばすと、一歩前に出た。

「ぉわぁっ」
「おいテメェら、ぐっ」
「なぁサイファー聞いてや!スコールにな、友達出来てんで!」
「あのな、スコールの友達尻尾があってな!」

地面に尻餅をつきながら、アーヴァインは頭を過ぎった『お母さんあのね、』のフレーズを永遠に封印する事を決めた。何よりも自分の命を守るために。
ゼルとセルフィに突進されたことで言葉を遮られたサイファーは、一瞬よろめいたものの何とか持ちこたえると、溜め息を一つつく。スコールには何かと喧嘩腰なサイファーだが、無邪気な二人には少しだけ甘い。既に背中によじ登り始めているセルフィを支え、胸元に纏わり付くゼルの頭を押さえたところでキスティスが前に出た。

「あなた達、分かってるの?私達は敵同士よ」

キョトン、と目を見開いた二人に、サイファーとスコールの溜め息が重なって響いた。
その溜め息に、サイファーの首にぶら下がるセルフィと、サイファーの腰に腕を回すゼルがムッとしたように顔を顰める。眉間にシワを寄せているが、サイファーと並んでいると幼さが際立つだけだった。

「知ってんで、そんなん!でもな、スコールに友達が出来てんやで〜?」
「そうだぜ!スコールが自分一人で友達作ったんだぞ?」
「初めての友達やもん、皆で応援したらなアカンねんで!」

力強く言った二人に、味方であるはずのスコールが僅かにダメージを受ける。確かにコミュニケーションは得意ではない。だが、友達がいない程ではない筈だ。多分。その言葉をグッと飲み込む。ここで反論したら、認めるのと同然である。というか目の前の5人は自分の友達では無かったのか。
押し黙ったスコールを余所に、尻餅をついたままだったアーヴァインが立ち上がり、サイファーに纏わり付く二人に近付いた。

「うんうん、そうだよね〜。セフィは本当いい子だね〜」
「あなた達は本当に変わらないわね」

そう言ったキスティスの目元も、心なしか緩んでいる。サイファーも僅かに優しい瞳で二人の頭を乱暴に撫でた。本当はキスティスもサイファーも、アーヴァインと同じくどうせパーティを組むならゼルとセルフィと組みたかったのだ。それを口に出すのはプライドが邪魔したが。共に戦うなら、気難しい仏頂面や冷たい無表情より明るくていつもニコニコした人物の方が良いに決まっていた。
そんな三人を見て、ゼルとセルフィも嬉しそうに笑う。

「せやねんで!」
「そうだぞ!だから、なぁ?」
「なー」

あ、ヤバい。そう思ったのはスコールだったか、アーヴァインだったか。ともあれ、注意を促す程の時間は無かった。ゼルとセルフィが笑い合った一瞬後、瞳に獣が宿る。その瞳から、綺麗に覆われていたはずの狂気が露出する。
密着した状態からゼルがサイファーの足を払い、セルフィが首に回していた腕に力を込めた。サイファーが状況を掴めずにいる間に、その右手に握られていたハイペリオンはゼルによって蹴り飛ばされる。
自分の方に飛んできたハイペリオンを受け止め、スコールは何度目か分からない溜め息をついた。

「邪魔すんじゃねぇよ」
「スコールが頑張ってんねんで」

低い声で言いながら、ゼルがアーヴァインの懐へと潜り込み、動きを封じる。セルフィはサイファーを押さえ込みながら、キスティスに魔法を放った。
その様子を眺め、スコールは手元の良く手入れされたハイペリオンを軽く振ってみた。実は一度触ってみたかったのだ。加勢する気も助ける気も無い。近接戦闘を得意とするあの二人にあそこまでの接近を許した時点で勝敗は決まったようなものだし、キスティスとサイファーに止められないものを自分が止められる筈も無い。幼なじみの中での自分は所詮次男か、もしかしたら三男かもしれないとスコールは良く理解していた。

「ジエンドいっとくぅ〜?」
「別に立ち上がってもいいんだぞ、俺相手に肉弾戦やる勇気があんならさぁ」

ハイペリオンを弄っている間に、呆気なく勝敗はついたらしい。物騒な台詞は聞こえなかったフリをして、スコールは顔を上げた。地面にはいつくばる三人の真ん中で、ゼルとセルフィが凶悪な笑みを浮かべている。

「…終わったか」
「おぉ、スコール。安心しろよ」
「もう邪魔者はおらへんからな!」
「うぅ…ヒドイよ〜」

もぞもぞと起き上がったアーヴァインが、一人安全圏にいるスコールを怨みがましい目で見る。立ち上がる気力までは無いのか、地面に座り込んだまま隣に倒れるサイファーを乱暴に揺さぶった。

「サ〜イファ〜、起きてよ、キスティスも〜」
「う、ん…」
「くそが…」

額に手を当て起き上がるサイファーとキスティスの横に立ち、ゼルが腕組みをした。セルフィが奪った武器を投げて寄越す。スコールは危なげなくそれを受け取ると、ハイペリオンと共にその場に置き五人の方へ歩み寄った。

「…何故ここにいる」
「知るかよ」

サイファーが忌ま忌ましいと言わんばかりの表情で返し、もう一度頭を押さえた。脳に響いたらしい。

「何アンタ、まだ魔女の騎士とか夢見がちなこと言ってんのかよ?」
「ロマンチックも大概にせぇへんとアカンで、サイファー」
「うっせぇ!」

あんまりな物言いに激昂したサイファーが右手を伸ばすが、当然そこに有るべきハイペリオンは今は無い。空を掻いた手は、そのまま忌ま忌ましそうに地面を叩いた。
その間に頭痛から回復したらしいキスティスがスコールの問いに答える。

「気が付いたらここにいたのよ」
「敵軍の進路を阻めってさ、皇帝って人に依頼されたんだよ〜」

ゼルとセルフィと同じく、三人も突然落下し、気付いたらこの異世界にいたという。

「皇帝に?」
「ええ。私たちを喚んだのは自分だって言ってたわ。状況も読めないし、そもそも人間を召喚するなんて聞いた事も無いけど…他にどうしようも無かったし、依頼を受けたの」

総司令官がいるなんて思いもしなかったもの、とキスティスが溜め息をついた。怒るサイファーから逃れたセルフィが隣にやってきて座ると、血の滲んだ頬に手をやりケアルをかける。それを見たアーヴァインもいそいそとセルフィに近付き手当てをねだった。
じゃれつき終わったらしいサイファーとゼルも、会話に参加する。

「報酬も充分…むしろ多いぐらいだったしな」
「ねぇねぇそれなんだけどさ〜、皇帝の言ってたのってゼルとセフィのことなんじゃない?」
「あ?」
「ほら、足りんなって言ってただろ〜?」
「ああ…そうか。なるほど」
「そういう事だったのね…」
「何がだよ?」

セルフィにケアルをかけてもらい上機嫌なアーヴァインの言葉に、サイファーとキスティスが何かを納得したように頷く。

「僕らの報酬、五人分だって考えると丁度いいくらいなんだよ」
「あなたたちも皇帝に喚ばれたってことね。何でスコールの所に落ちたのかは分からないけど…」
「チキンが、どこで道間違えやがったんだ」

一言多いサイファーに、チキンじゃねぇとゼルが反論しまた小競り合いが起きる。セルフィがそれに外野から野次を飛ばし始め、アーヴァインが控えめに制止をする。よく見慣れたその光景にスコールが溜め息をつくと、全く同時に隣から溜め息が聞こえた。
見ればキスティスが心底呆れた、しかしどこか楽しげな表情でガーデンにいるのと変わらぬ様子の四人を眺めている。

「とりあえず…」
「皇帝の依頼はキャンセルね。ガーデンの意向に沿わないもの」
「そうだな」
「では総司令官殿、ご命令をどうぞ」

年長SeeDと言うより、姉の表情で言ったキスティスが片目を瞑ってみせる。それに小さく笑みを返し、取り敢えず整列の号令をかけるため、スコールは立ち上がった。

「目標は魔女アルティミシアだ。今度こそ滅ぼすぞ」

総司令官の言葉に、敵に飢えた五匹の獣が心底嬉しそうに笑った。





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2011/06/13 23:04
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