「でさ、実際悲劇だったわけ?」

何てことは無い。あまりに悲劇悲劇と言われているから、一体どんなものかと気になっただけだ。
片手でスタッフをクルクルと回し、驚いたようにこちらを凝視するユウナに近付く。あと2メートル、という所で、飛んできたラグナに頭を押さえ付けられた。

「ぉわっ、何すんだよ」
「馬鹿お前ヴァン!聞いて良い事と悪い事があんだろうが!」

揉み合う俺達を止めたのは、虚空を見詰めて何やら考え込んでいたユウナの声だ。うーん、と唸るように言ったユウナに、ラグナが慌てて「いや、別にいいんだよ言わなくて!」と声を掛ける。その隙にまだ俺の頭を押さえ付けていたラグナの腕から抜け出した。

「あんな言われる程なの?」
「あっこらヴァン…」
「んー、そんな悲劇って程でも無いよ。ホントに。ただちょっと最後に死ぬ事が決定してる旅に出たら、最終的に1番信頼してて好きだった護衛が還らぬ人となりましたってくらい」
「へぇー」

何故か絶句して固まったラグナから離れ、ユウナに近付く。視線を虚空から俺に移して、ユウナはにっこりと笑った。

「因みにその彼は今カオスにいまーす」
「成る程。だからあいつら悲劇悲劇言うのか」
「そう。ヒドイでしょ?」

少しだけ膨れて、ユウナが顰めっ面をした。
ユウナは可愛い。ティファもライトもティナも可愛いけど、きっと可愛いって言って1番賛同を得られるのはユウナだろう。

「家族は?」
「両親はいないの」
「へぇ、じゃあ俺と一緒だ」

笑いかけると、ユウナも嬉しそうに微笑み返してくれた。うん、ユウナは可愛い。

「お揃いだね」
「な」
「ヴァンはどういう風に暮らしてたの?」

考える。故郷ではどうだったか。別にこれといって特別な事は何も無かった。普通に、皆と同じように暮らしていただけだ。

「別にあんまりだなぁ。苦労っていう苦労はしてないし」
「そうなの?」

ユウナはニコニコと笑っている。ようやく動き出したラグナがユウナに駆け寄り忙しなく両手を上下させた。

「あ、あのゴメンなユウナちゃ…」
「俺はそうだなー、両親死んだ後に戦争始まって、唯一の身内の兄さんが皇帝暗殺したかもってんで薬漬けにされて死んだくらいかなぁ」
「それでどうしたの?」
「うーん、スリしたりして生きてた」
「大変だったね」
「ユウナ程じゃねぇって」

またラグナの動きが止まる。さっきから落ち着きの無い奴だ。今度は俺の顔を見たまま絶句しているようだ。

「お兄さんが亡くなってからは一人?」
「いや、ダウンタウン…スラムみたいな所にいたからさ、俺の国負けたし。仲間は一杯いたよ。ユウナは?」
「私も傍に居てくれる人…犬?がいたから。それに小さな島で育ったから、皆家族みたいだったよ」
「そっか。じゃあ寂しくはなかったんだな」
「ヴァンは?」
「俺も。チビ共食わしてやんなきゃいけなかったから、それどころじゃ無かったしな」

ユウナとの間に意外な共通点を見付けてしまった。
妙な仲間意識を感じて何だか嬉しくなる。それはユウナも同じだったらしい。二人で笑いあっていれば、俺とユウナを交互に見て固まっていたラグナがようやく動き出した。

「お前ら…」
「ん?どうしたんだ?」
「どうしたの、ラグナさん」

ヨロヨロと近付いたラグナの目は少しだけ潤んでいるようにも見える。何かを言おうとしてハッと口を押さえたラグナは、また一歩俺達に近付きいきなり両腕を広げた。

「お前たち!俺は、俺は…!」

そのまま抱きしめようと思ったのか、長い腕が二人まとめて囲おうとするのをユウナの腕を引きつつ飛び退く事で何とか避けた。
一体何なんだ。
避けられた事でバランスが崩れたらしいラグナは、「おわぁっ」と間抜けな声を漏らしてよろめいた。

「何だよ、いきなり」
「おまっ、コラヴァン、何で避けるんだ!」
「避けるだろ、フツー」

俺に腕を握られたままのユウナも、ラグナの意図が分からないのかキョトンとしている。

「だってなぁ、お前ら、そんな悲しい事ばっかり…!それでも強がる健気な子供達を抱きしめたいと思うのは普通だろうが!!」
「ええ?」
「おじさんの胸で泣けばいい!!」
「いいよ、別に」

泣けと言いながら、ラグナ自身が泣きはじめる。おいおいと噎び泣く姿はちょっと異様で怖い。
ドン引きしている俺とは対照的に、ユウナは心配げな表情を浮かべている。ユウナは性格まで可愛いな、ライトニングもかなり可愛いけど。
そんな余計な事を考えていたのが悪かったのか、ラグナに駆け寄るユウナを止め損ねてしまった。

「あの、ラグナさん、泣かないでください」
「そんなこと言ったってユウナちゃん…!ユウナちゃんも泣いていいんだよ、ほら無理なんてしないで!」

ユウナが言うべき言葉が見付からずに困っているような表情をするから、助け舟を出してやることにした。ラグナは大人の癖に世話がかかる。

「ラグナ、ユウナが困ってんだろ」
「なっ…、何でお前はそんなに淡泊なの!」
「んな事言ったって…」

ユウナと顔を見合わせ、頭を掻く。俺はあまり言葉が上手く無いから、なんと伝えればいいのか分からない。ユウナも同じみたいだった。俺とユウナは完璧に分かり合えているのに、何でラグナには分からないんだ。

「あのね、ラグナさん。悲劇なんかじゃ無いよ」
「だってユウナちゃん!それが悲劇じゃ無かったらこの世に悲劇なんか無いだろう!」
「そんな事ねぇよ。俺達は生きてる」
「そうですよ。だから、私達の物語は悲劇なんかじゃ無いんです」

呆けたように顔を上げたラグナの両目からは、まだポロポロと涙がこぼれ落ちている。
大人でも泣く事があるなんて知らなかった俺達は、拭ってやるべきなのかも分からないまま立ち尽くす。

「お前たちは、本当に…」

そう言って、またラグナは顔を伏せたまま大袈裟に泣き出した。

「ラグナさん…」
「おい、泣くなって」
「だって、だってな、お前ら」

かける言葉さえ見付けられず、ただ無為にラグナを取り囲む。ラグナは両手で涙を拭い、それでも地面を睨んだまま、搾り出すように言葉を紡いだ。

「俺はな、お前たち程強い子供を見たことが無いよ」

落ちる涙はまるで永遠に止まる事など無いかのようだ。そんなこと無いだろ、とも言えず、ラグナに比べたら随分と子供な俺とユウナは顔を見合わせたまま成す術も無く立っているのだった。それこそ、ラグナと比べても十分に大人なライトニングがやってきて、ラグナを剣で殴って泣き止ませるまで。



悲しい事は沢山あったさ。でも悲劇では無かった。
今俺達は笑っているから、決して悲劇なんかじゃない。
なぁラグナ、この劇が悲しいまま終わる筈がないだろう。





2011/06/10 00:28
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