ヘローヘロー、聞こえますか。
チイがいなくなって、ユウナは笑わなくなりました。色んな人が会いに来て、ユウナは笑って話を聞くけれど、でもユウナはあれから笑いません。
ニコニコして、相談を聞いて、励まして、そして誰もいなくなったらユウナは言います。

「分かってるんだ。前へ進まなきゃって。彼の為にも、いつまでもこのままじゃ駄目だって」

夕焼けの海だとか、朝焼けの砂浜だとかで遠い目をしながら。あの子は英雄でヒーローで大召喚士サマだから、やっぱりスピラに生きる皆の事を一番に考えてしまいます。自分の悲しみは後回しにしてしまいます。皆の為だからって言って、チイがいなくても平気なフリをします。
でも、私は願ってしまうのです。どうかこのまま忘れないで。思い続けて。ユウナに、皆に、チイを思って欲しいのです。チイの為に苦しんで欲しいのです。
ユウナがそんな事望んでないって知ってるけど。私だって幸せの方が好きだけど。

ヘロー親友、お元気ですか。夢の海はどうですか。
私は元気です。ユウナも元気です。でもちっとも元気じゃありません。
世界は望み通り平和になって、皆幸せになりました。でも私は世界中の人がチイを思って泣き続ければいいと思っています。

ヘロー親友、夢と消えた友よ。
誰かさんがいなくなってしまったせいで、私の毎日はとてもつまんないよ。
どこで何してんの。もしかして泣いてんの。なら慰めてあげるから。

帰っておいでよ。



*****



届くわけない手紙は火にくべた。海に流すか迷ったけど、それでもし届いてしまったら悔しいから止めた。あんなポエミーな手紙、例え宛名の主にだって読まれたら恥ずかしくて死んじゃう。
でも、今はもうどうだっていい事だ。
あたしはきっと今日のこの日を一生忘れないだろう。間違いなく人生最良の日。これから何年生きるのかなんて知らないけど、今日以上に素晴らしい日なんて来るわけない。
アイツが帰ってきた。
ユウナが笑った。
二人は抱き合って、キスをして、そして幸せそうに見つめ合った。
これ以上に幸せな日なんかあるわけない!

夜の浜辺、遠くからはまだ続くお祭り騒ぎの喧騒が聞こえてくる。あの中心にいる二人に思いを馳せていたら、後ろで砂を踏み締める音がした。

「あ、こんな所にいた。何してんスか」
「チイこそ。今日の主役がこんな所にいていいの〜?」
「ユウナ、婆さん達に取られちゃった」

笑って隣に座ると、大きく息をつく。帰ってきてすぐ大宴会で、疲れちゃったんだろうか。
二人の間に会話は無くて、遠い笑い声と太鼓の音に耳を澄ます。

「な、リュックさ、俺に手紙書いただろ?」

突然、顔を覗き込んで言われた言葉に、あたしは凍り付いた。だってあの手紙は、誰にも知られずに燃え尽きた筈なのに。

「なんでぇっ!?」
「はは、やっぱり」
「なんでチイが知ってんのぉ!?だってアレは、」
「燃やしただろ」

胡座をかいた膝に頬杖をついてこちらを見る表情は、悪戯に成功した子供みたいだ。ニヤニヤと笑うその目が憎らしい。

「読んだの!?ねぇ!」
「リュックが燃やしたりするから、読めなかったっスよ。海に流してくれれば読めたのに」

あの時のあたしの判断は正しかったという訳だ。口を尖らせる彼を尻目に息をつく。あんな文章、見られたらどんなにからかわれるか分からない。

「なぁ、何て書いてあったんスか?」
「教えないよ!」
「まさか愛の告白?」
「そんな訳無いでしょ〜」

二人で肩を寄せ合って笑う。2年前の旅の最中、何度もこうして秘密の話をした。下らない事も、泣いちゃうくらい悲しくて重い事も、こうして共有した。
懐かしさに少しだけ涙腺が刺激される。2年間絶対泣かなかったのに。

「な。教えてよ。何て書いてあった?」

下を向いていた目線を上げれば、丁度向こうもこっちを見た所だった。目の回りがちょっとだけ赤くなってる。あたしなんかより断然、彼の方が泣きそうだ。その目を細めて、彼は小さく「お願い。」と囁いた。
その顔を見たら、その声を聞いたら、彼があたしと同じ事を思い出して、同じように思ってる事が分かったから、教えてあげても良いかなって気がしたのだ。

「泣き虫」
「ひでぇ」
「慰めてあげるから、帰っておいでって書いたんだよ」
「そっか」

今度こそ、彼の瞳から雫が一粒こぼれ落ちた。笑いながら泣くなんて器用なヤツ。でもきっと、あたしも同じ顔をしてるんだろう。

チイ、と呼び掛けようとして考え直す。ティーダ、と名前を呼んだら、小さな笑い声の後に噛み締めるように名前を呼ばれた。



ヘローヘロー、親友。おかえり、親友。
いつかまた気分がノッたら、手紙を書こうと思います。その時は返事をちょうだい。
ヘロー親友、隣に座る友よ。





2011/04/26 22:04
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