団欒する仲間達の上に、突如空から人が降ってきた。仲間達が敵かと身構える中で俺だけが全く別の意味で混乱する。何故なら降ってきた二人組は、間違いなく俺の幼なじみだったのだ。

「いっ…て、なんだ?」
「ゼル重〜い〜、のいて〜」
「あ、わり!怪我ねぇか?」

あの気の抜けた喋り方は、あのトサカ頭は、見間違える筈がない。SeeD服を着たゼルとセルフィが重なり合うように、そこにいた。
何でこんな所に。俺の混乱には誰も気付かない。立ち上がったゼルがセルフィを引っ張り起こす。緩く笑う二人だが、全身はいつでも戦闘に入れるように緊張している筈だ。自分達を囲む人数も武器を所持していることも既に把握していて、こちらに敵意が有るかを伺っている。何故そんなことが分かるのかと問われれば、彼らがSeeDだからの一言で十分だ。そういう教育を受けて俺達は育っていて、尚且つ目の前の二人は敵を油断させるのが天才的に上手かった。何より最悪なのは、二人がSeeD服を着ている事だ。あの制服は無意味に装飾過多な訳では無い。一目でSeeDだと分かるように身分証を兼ねている。
あの戦争の英雄であるSeeDが二人、しかも制服を着て。今二人に対して剣を構えるという事は、ガーデンに敵対する意思を持つという事になる。武器を握る者でSeeD服を知らないなど有り得ないのだ。少なくとも俺達の世界では。
その時、クラウドが動いた。不審人物と判断したのか、例の大剣を両手に構え口を開く。俺の制止よりもクラウドの言葉よりも、ゼルの拳の方が速かった。

ガーデン随一の格闘家の拳は空気を裂く音をたててクラウドに迫る。上体を反らす事で間一髪避ける事に成功したクラウドだが、続く足技に反応が遅れた。そうしている内にフリオニールがその弓を別方向に向けた。魔法の構えを取ったセルフィに気付いたのだ。だがその時には既に詠唱を終えてしまったセルフィが広範囲にファイガを放つ。隙を伺っていた他の仲間達が防御のために体勢を変える。クラウドが防御の姿勢を取ったのを見計らい、今度はゼルがGFの召喚を始めた。
悪くない作戦だ。幼なじみ達の中では末っ子のような二人だが、戦闘においては背中を任せる事に何の不安も無い。無い、が。
何故俺に気付かない。

「ゼル・ディン!セルフィ・ティルミット!やめろ!」

少し自分の存在感に危機感を抱いた所で、俺はようやく制止するための声を上げた。

これでも一応、ガーデンの総司令官なのだ。命令の響きを持った言葉に、ゼルとセルフィは直ぐさま彼らの敵、即ち俺の味方から十分な距離を取り、気を付けの姿勢になった。頭で考えるよりも早く、幼なじみであり上司でもある聞き慣れた声と命令に体が反応したのだろう。二人ともいまいち状況を理解出来ていないといった風情だった。それでも子供の頃からの訓練とは恐ろしいもので、二人の背筋は伸び右手は額に添えられ完璧な敬礼をしている。
俺はひとまずこの二人に状況を説明するべく、「休め」の号令を出した。

他に説明のしようも無く、「ここは異世界で、自分達は神の代理戦争をしている」と言えば、素直な性質の二人は疑うこと無く信じて感心したように周りを見渡した。そういえばゼルは昔も今もサイファーの下らない嘘を信じ込んでいたな。仲間の言葉でも少しは疑うように帰ったら教育した方がいいのかもしれない。
仲間達には俺の故郷の仲間だと紹介し、今は興味深そうに遠くから眺めている。積もる話もあるだろう、と話し掛けないでいてくれるのが今は有り難かった。

「じゃあさ、スコールは正義の味方ってワケか?」
「まぁ…そうなるな。」
「え〜チョー格好ええや〜ん」

右にゼル、左にセルフィがぴったりとくっつく。心なしか見守る仲間達の目線が生温いような気もするが、気にしない事にした。二人とも俺よりも背が低いから、見上げる形になっている。キラキラした大きな目、クルクル変わる表情。幼い頃から変わらないそれらに、自然と口元が緩んだ。

「なあなあ、スコール!」
「聞きたい事あんねん!」

抱き着くように、二人が俺の腰に腕を回す。幼い仕種に、思わず擦り寄せられた頭を撫でる。

「サイファー、ここにいるのか?」
「いや、いないな。」
「アーヴィンは〜?」
「いない。」

ふーん、と二人は同時に頷き、顔を見合わせる。こんな時の仕種がゼルとセルフィはとても似通っていた。くるりと顔をこちらに向けた二人が満面の笑みを見せる。

「キスティは?」

幼い頃の呼び名に、妙に優しい気持ちになった。だから俺は、なんの警戒も無くその疑問に答えてしまった。

「いや、いないぞ。」

俺達だけだ、と言えば、二人はもう一度顔を見合わせて笑い合った。
二人の体が離れる。消えた温もりを少しだけ寂しく思いつつ正面に並んだ二人を見れば、再び見事な敬礼をしていた。

「では総司令官、我々の任務は。」

間違いなく、トップクラスのSeeDがそこにはいた。見守る仲間達も威風堂々たる佇まいに感心の溜め息を漏らす。それを誇らしく思い、彼らに命令を下した。

「魔女討伐任務を遂行する。再び我等の前に現れた未来の魔女、アルティミシアを今度こそ、」

殲滅するのだ。そう言い切れば、短く鋭い返事をした二人は敬礼を解き、僅かに考えるようなそぶりをする。
命令を反芻するかのように3拍おいて、同時に二人の顔が歪んだ。先程とは真逆の質の、笑みの形に。擬音を付けるならば、にしゃり、だろうか。餓えた獣が漸く獲物を見付けたかのように、二人は笑う。SeeDの仮面で上手に隠された狂気が、そこには浮き彫りになっていた。

「ん〜、なっるっほっど〜」
「魔女討伐な、マジョトウバツ。」
「しかもあと3人はいな〜い〜」

セルフィが歌うように言葉を紡ぎ、ゼルは難問に挑む学者のように言葉を繰り返す。
最早自分達以外に対等に戦える相手がいない事を嘆いていた餓えた獣達は、片方は拳をゴキゴキと鳴らし、もう片方はヌンチャクを華麗に踊らせ俺を振り返る。その瞬間、ようやく俺はこの先の未来に嫌な予感しかしない事に気付いた。

「さ、行こうぜスコール。」
「早く早く〜」

ちょっとヤバいんじゃないかこれ。アーヴァインはともかく、キスティスとサイファーがいないっていうのはヤバいんじゃないか。
殴ってでも、鞭打ってでもこの二人の暴走を止める人間がいない。

保護者のいない魔女討伐。
俺にできるのは、「皮をベリベリって剥いじゃおうか」「そもそも魔女の起源はな」という二人の声を聞きながら、5分前の自分の口を塞ぐ方法を必死に考える事のみだった。

だって、俺ではこの二人を止められない。





2011/01/22 15:47
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