きみは粗悪 ver2 任務帰り。一度ライブラ本部に戻ろうとHLの大通りを歩いていると、携帯端末に着信が入った。表示を確認すると仕事の同僚。正直あまり気が進まなかったが、出なかったら出なかったで面倒な相手なので渋々ながらも電話に出る。すると泣きそうな声で開口一番『杏樹〜金貸してくれ〜〜』。どこかに女でもいるのだろう。受話器越しにいくつか鈴の鳴るような媚びた声が聞こえる。少し眉根が寄るが、それは仕方ない。彼女たちも仕事でしていることだ、気にしないでおく。 ともあれ、今泣きたいのはこっちだ。何が好きで同僚に電話口の第一声として「金を貸せ」と言われなくてはならないのか。しかもそれは今に始まったことではない。これまで何度もあったことで、彼はその常習犯なのだ。 「その手には乗らないから」 努めて冷淡に言い放つが『そこをなんとか〜』と猫撫で声が追いすがってくる。 はあ、とため息をついた。 「あのね、わたしはクラウスとは違うんだからね」 だから騙されないし優しくもしてあげないと言外に滲ませる。 『そんなあ〜杏樹サマお願いしますよ〜〜』 えぐえぐと泣きながら、同僚ことザップ・レンフロは切実に訴えてくる。 十中八九ウソ泣きだろうと判断を下すも、本日二度目のため息をつく。 いろいろ言いながら結局は手を貸す未来が見えてしまうのだから、自分も相当お人よしだよなあだなんて我ながら思う。 「ザップ、」 『え?! 何?! 何ですか杏樹サマ!』 その展開を彼もよくわかっていて電話をかけてきているのだ。 何かを期待するように声が上ずっている。歪みないクズ……確信犯っぷりだ。 「調子に乗るなSS(シルバーシット)」 表情は笑みを浮かべたまま、思わずドスの利いた低音が飛び出してしまった。 思ったよりマジトーンだったらしい。すぐ傍を通りかかった通行人がぎょっとこちらを振り向く気配がした。彼だか彼女だかはわからないが、その通りすがりの人には少し申し訳ないことをした。 だがそれとザップの駄目人間さは別問題だ。本人が目の前にいれば、人目など関係なく絶対に中指を上に立てていた。 『ええ〜〜杏樹〜』 断られたと思ったらしいザップが、電話でもよくわかるくらいに落ち込んでいる。 けれどまあ、先程も言ったように最終的にどうするかは杏樹自身一番わかっていた。 自分が次の言葉を告げると、彼はどんな反応をするのだろう。想像に容易くて杏樹は音に出さず笑ってしまった。 「――今回、だけね」 「エッ??!!」 案の定、ザップは予想通りの反応を返してくれたのである。 ▼ 2015/06/11(2015/07/05move,2015/07/07up) ←back |