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きみは粗悪
携帯端末に着信が入り、表示を確認すると仕事の同僚だったので電話に出た。すると泣きそうな声で開口一番『杏樹〜金貸してくれ〜〜』。どこかに女でもいるのか、いくつか鈴の鳴るような媚びた声が聞こえる。少し眉根が寄るが、それは仕方ない。彼女たちも仕事でしていることだ、あまり気にしないでおく。ともあれ、今泣きたいのはこっちだ。何が好きで同僚に電話口で「金を貸せ」と言われなくてはならないのか。しかもそれは今に始まったことではない。これまで何度もあったことで、彼はその常習犯なのだ。
「その手には乗らないから」努めて冷淡に言い放つが『そこをなんとか〜』と声が追いすがってくる。はあ、とため息をつく。「あのね、わたしはクラウスとは違うんだからね」だから騙されないし優しくもしてあげないと言外に滲ませる。『そんなあ〜杏樹サマお願いしますよ〜〜』えぐえぐと泣きながら、同僚ことザップ・レンフロは切実に訴えてくる。十中八九ウソ泣きだろうと判断をつけるも、本日二度目のため息をつく。いろいろ言いながら結局は助けてしまう未来が見えてしまうのだから、自分も相当お人よしだよなあだなんて我ながら思う。「ザップ」『え?! 何?! 何ですか杏樹サマ!』その展開を彼もよくわかっていて電話をかけてきているのだ。何かを期待するように声が上ずっている。歪みないクズ……確信犯っぷりだ。「調子に乗るなSS(シルバーシット)」表情は笑みを浮かべたまま、思わずドスの利いた低音が飛び出してしまった。本人が目の前にいれば、さらに親指を下に立てていた。『ええ〜〜杏樹〜』断られたと思ったらしいザップが、電話でもよくわかるくらいに落ち込んでいる。自分が次の言葉を告げると、どんな反応をするのだろう。想像に容易くて杏樹は音に出さず笑ってしまった。「――今回、だけね」


▼ 2015/06/11(2015/07/05move,2015/07/07up)

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