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秘密のガーデン・アーチ
目を覚ませば愛する人がそこにいる。
どこにでもあるようで、どこにでもない、貴い幸せが、触れられる位置にある。
それがどれだけありがたく、恵まれたことであろうか。

杏樹はその幸福を、病室のベッドの上で静かに噛みしめた。





傍らで眠る彼に手を伸ばす。
自分とは違う、黒色の少し硬いくせ毛に触れる。
きっとこれが昨日だったら。杏樹が近づこうとすれば、実際は触れていなくても、すぐに察して起きていたに違いない。
今日は、そうではない。これはスティーブンとの関係が変化する前の距離感と同じだった。
心が千切れそうなほどに嬉しい。

寝顔を眺めながら髪を撫でていると、しばらくして「んん、」と彼が身じろぎをした。

「おはよう、スティ」
「…………杏樹、」

微笑めば、彼は半ば茫然とした様子で、たわごとのように呟く。

「ああ、杏樹」

震えた声で、名前を呼ぶ。

「……本当に、生きていてくれて、ありがとう。俺は、救われた気がしたよ」

そして、スティーブンは、くしゃりと顔を歪めて笑った。

「だってまた、愛を、伝えることができるんだから」
――今まで、すまなかった。

うつむき、項垂れる。

「怖かったんだ。君を、本気で好きになって、愛してしまうことが。兄貴分だからとか、適当なことで誤魔化していたけれど。ただ、本当の意味で誰かを愛することが、怖かった」

スティーブンの膝の上で握りしめられている両拳は、小さく震えていた。

「杏樹、」

スティーブンが語り掛ける。

「これから言うのは、僕にとってすごく都合のいいことだけど、いや、K・Kあたりがこの場にいれば、体に何発も穴をあけられそうな台詞だけど、いいかい?」

そうして、恐る恐る、彼は顔を上げて、杏樹の目を真っ直ぐ見た。
スティーブンの深紅の瞳は色々な感情を映していたけど、一際決意の色が濃く滲み出ていた。
杏樹は無言でうなずく。

「――もし、君さえよければ」

意思の強い紅の中に、僅かな恐怖が揺らめいた。
それすらも愛おしくて、美しい瞳は杏樹を捕らえて離さない。

「君が、よければでいい」

まるで祈るように、スティーブンは言葉を吐き出す。

「……俺を、もう一度。愛してくれないか」

一も二もない、純粋な懇願。
杏樹にとっては、それだけで十分だった。

「うん。うん、」

今なら死んでもいいと馬鹿みたいに、だけど本気で思えた。この人のためなら、どこまでも行ける。
杏樹は込み上げる涙を堪えながら、破顔した。

「こちらこそ、どうかわたしを、今度は妹としてじゃなく……一人のひととして愛してください」

自分たちはきっと、二度と、この幸福を手離すことはないだろう。
交わしたキスは、甘くて愛しい味がした。


▼ 2015/07/21(2017/10/12up)

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