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奪われた子守唄
―― 一日中ザップの部屋で過ごした。

男女ともに一つ屋根の下と言えば、ロマンスが生まれるのではという意味で、聞こえは良いのかもしれない。
しかし、実際やったことといえば、とりあえずシャワーで血を洗い流してから、ザップがビデオショップで借りて、そのまま延滞していたB級映画を見たり、エロ本探しをしてみたり、そこでたまたま見つけた懐かしい漫画を読みふけったり。
もう二人ともいい歳なのに、ティーンエイジャー顔負けだった。
ヤリ部屋に行かないの、とザップに訊くのは野暮だと感じて、あえて口にはしなかったけど。

夜も更けた頃。

ライブラの活動も終了して、もう誰とも遭わない時間を見計らって、今度こそ家に帰ることにする。
家まで送ると主張したザップに対し、これでも仮にもライブラの一員なんだから大丈夫だと断った。
不機嫌な顔になっても、なんだかんだで玄関まで見送りに来てくれるザップは、本当に優しい。

「今日は、ありがとうね。ザップのおかげで、ちょっとマシになった」
「おう、そうか」

がしがしと首の裏を掻きながら、しかし目を合わせようとしない。疑問に思って表情を伺おうとすれば、ザップが急にこちらを向いた。
ばちり、と視線が合う。

「あー、お前、こっちこい」
「ん、?」

意図はわからなかったけれど、とりあえず言う通りに近寄れば、前髪にキスをされた。

「は、いや、……え? ザップ?」
「よし」

全然『よし』じゃないんですがそれは。
満足顔で頷くザップを前に戸惑う。その真意を問う暇もなく「じゃあまた明日な」と追い出されてしまった。
送っていくと言ったと思えば、早々に部屋から追い出すとは。益々首を傾げつつ、帰途についた。





一日ぶりの自宅。
パチリ。
小気味いい音と共に、真っ暗な部屋に明かりを灯す。

洗濯機で洗えないからと血のついたまま持って帰ってきていた薄手のジャケットを、壁のハンガーに掛けようとして、その近くの棚の上にある写真立てに目が移った。

――あ、だめだ、と直感したときにはもう遅い。

まだHL入りする前に撮った写真だ。自分の隣にはクラウスとスティーブンがいて、二人とも心から微笑んでいる。
冷血漢と呼ばれるスティーブンがこんなふうに笑うのは、杏樹様の前だけですねとギルベルトに言われた在りし日が蘇る。あのときは本当に嬉しくて、それしか頭になかった。呆れるほどにおめでたい思考回路をしていたものだ。

スティーブンとの関係は、表向きは全く変わらないだろう。しかし決定的に変化してしまった今、もう二度と、この頃と同じ表情で写真に写ることはない。
涙がこぼれる前に、ぱたんと写真立てを伏せる。
大丈夫だ。彼に会ってもこれまで通り笑えばいい。なんてことない、簡単じゃないか。


▼ 2015/07/20(2017/04/12up)

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