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落ちた飴玉の咎
「――ごめん、落ち着いた」

数時間して、もう明け方と見紛うくらいの頃。
泣き果てて赤くなっているであろう目元を擦ろうとすると「やめろ」とザップが制する。無言のままその親指で、まだ目尻に残っていた涙を拭われる。

真剣な真っ赤な瞳と少ない口数が本当におかしくて、普段ならふきだしてバカにするくらいしてるのに、不思議とそうする気は起きない。やはり何も訊こうとしないこの距離感がとても心地よい。
常日頃の行いはクズの極みだが、女性の扱いには長けているのか。そんなふうに捻くれた結論を出してしまう自分は、相当素直じゃない。本当は知ってる。女性関係とは関係なく、ザップが意外と人の機微に聡くて、気が利く人だってこと。そういうところが、好きだ。

「ありがとう」

笑って礼を言う。

「かなり眠いでしょ、ザップ。わたし家に帰るから、あとは出勤までゆっくり休みなよ」

ずっと抱き合った体勢の状態でいたのだから、お互いに寝ていない。
運がいいのか悪いのか、自分は今日は非番だが、面には出していないものの、ザップには睡魔が襲ってきているはずだ。手でその胸板を押すことで、放して、という意志を示す。

「……いやだ」
「え、」
「ぜってえ放さねえ」
「いや、だって、ザップ今日しごと、」
「休む」

何の迷いもなく答えるザップに、クラウスはともかく、スティが許さないでしょ、と諌めれば「だから旦那を泣き落とせばいける」と真顔で返された。

「あはは、冗談はやめてよね、わたしたちライブラだよ? そんな急に休むだなんて……」
「今日特に任務とかなかったし」
「あっ、そう」

こうなったザップはてこでも動かない。経験上それを知っているから匙を投げた。元々休みだった自分はともかく、ザップまで突然非番を取るのだ。あの人に変な勘繰りをされそうだ。でもまあ、別にいいかな、と自嘲気味に口の橋を歪めた。


▼ 2015/07/20(2017/01/22up)

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