B3→total reflection | ナノ


もう青い鳥を探せなくなったとしても
さっきまでどんな会話をしていたのだったか。
「勘違いしてるだけだよ、杏樹」
愛しい人に言われて、頭の中が真っ白になった。
いやだ、そんなわけない。
「僕がずっと君の面倒を見てきて、兄のようだったからね」
彼は足を組み替える。うっすらと笑みを浮かべて、死刑宣告に似た言葉を再び告げた。
「だから――『それ』は、君のただの勘違いでしかない」
そんな冷たい笑顔を見たのは。そんな冷たい笑顔が、自分に向けられたのは、いつ以来だったろう。もしかすると、初めてかもしれなかった。彼との間に明確に線を引かれた。これまではおぼろげだった境界線が、許していた感情が封じ込められる。そこには慈悲などない。敵意すら、あった。反論をしたいのに、口ははくはくと閉口を繰り返すだけで役に立たない。息が震えた。吐息が白く染まっていたことで、ようやく彼が血法を使っていた事実に気づいた。まさか、そんな。愕然として、でも、どうしても信じたくなかった。諦めきれずに足掻く女は、彼の目にどれほど醜く映ったことだろう。

「……ねえ、『あなた』は、わたしのこと、愛してくれる?」

言外に、一人の女として愛してほしいと訴える。この愛情は、家族愛なんかじゃなくて、本物の恋慕のはずだった。少なくとも自分はそう頑なに想い続けて一切の疑いを知らなかった。

「ああ、そうだね。僕は君を愛そう」彼は笑った。「――生涯、妹として」

ずっとほしかった言葉が手に入ったのに、これっぽっちも嬉しくなかった。凍結した心は感情を刻まない。余計な一節が頭の中をくるくる回る。彼の顔は能面のような微笑を張り付けたまま。それは本心ではないんじゃないか、それを剥ぎ取れば「本当の彼」がいるんじゃないか。そんな救えない錯覚すら覚えてしまう。いや。もう、終わってしまった。修復なんてする余地もないくらい、彼と結ばれた糸は凍った。結局ひとりよがりだったのだ。彼はこっちのことなんて、出会ったころならまだしも、今の今まで一度も女として見たことはなかったのだ。大切な妹分だから、過保護に世話を焼いてきたし、汚いところが及ばないように気を遣ってきた。たったそれだけの簡単な話だった。ああ、本当だ。彼の言う通り、勘違いしていただけだった。彼から向けられる愛情を、自分と同じものだと。そして他でもない己さえ、いつしか慕う感情を恋慕だとはき違えた。胸の中から熱い何かが込み上げてくる。じわりと視界が滲んで、嗚咽を上げそうになる。それでも、堪える。これ以上彼を失望させたくない。自分はただの妹分。その事実より大きいものは望まない。

「ありがとう、マイブラザー」

そう告げることで、こうして彼が以前のように優しく微笑んでくれるのなら、一生凍ったままでいい。氷づけにされた心はきっともう動くことはない。


▼ 2015/07/20(2016/10/17up)

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