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昨日の乱反射
チェインがスティーブンに思いを寄せていたことはなんとなく感じていたし、実際に符牒の内容を知ったときは、ああ、なるほど、と。妙にすとんと胸の内に落ちたものだった。





今朝方、一度ライブラ事務所で集会を終わらせたあと、それぞれ別々の任務へ向かう前。杏樹はチェインの現実復帰祝いに一杯やらないかと、K・Kに誘われていた。

仕事を終え、ライブラのいきつけのバーへ赴く。
ネオンの輝く夜の街の一角。目立たないそこに店はある。
勝手知ったるなんとやら、裏口から入ると、お洒落なジャズが耳をくすぐる。

先に来ていたK・Kを見つけ、そして次にその隣のチェインを視界に収めたところで、おや、と目を瞬いた。

「わたしたちだけ?」
「そうよ、言ってなかったかしら。女子会も兼ねてるの」
「ニーカは?」
「急用で来れなくなったって」

どうやら彼女によると、チェインの正式な快気祝いのパーティーはまた別に開催されるそうだ。





女である自分の目から見ても、チェインは可愛いと思う。

東洋的な容姿はミステリアスで、クールな佇まいも手足が長いから綺麗に決まる。
仕事には真剣だけど、真面目人間というほどではなくて、気を許した相手には花がほころぶような可憐な笑顔を見せてくれるし、わりとおっちょこちょいな面もある。
眉目秀麗な完璧人間。――に見えてそうではないのが、とてもいじらしい。

スティーブンが『純粋な』他人からの色恋の感情に疎いことが悩みの種だが、それさえなんとかなれば、彼との恋模様もなるようになる気がする。
……それなのに釈然としない気持ちになるのはなぜなのだろう。





ある程度アルコールが入ってくると、頭の中にもやがかかったように、意識がふわふわし始める。
酒に強い方ではないから、比較的ゆっくりちびちびと飲み進めていたが、そんなとき突然K・Kが「女子トークしましょう! 恋バナとか!」と叫びだした。
まあ女子会と言いながら、さっきまで酒の肴は仕事関係の話ばかりだったから、酔いがちょうどよく回ってきたことも相まっての展開だ。

杏樹としては、そのK・Kの発言にデジャヴを覚えると同時に某偏執王が脳裏をよぎり、在りし日のトラウマが蘇りそうになったが。

「なんかないのぉ〜甘酸っぱい話! 二人とも若いんだから何かあるでしょ〜?」

赤い顔で空のグラスを軽く振り回すK・K。
チェインとお互いを見合わせるものの、そもそもライブラ構成員である自分たちは、世界平和のため奔走する毎日。特に色恋の話が出るわけもない。
数日前の符牒の件はすでにK・Kも周知であるし、K・Kのいう「何か」が特筆してないのである。

「え〜、つまんないわぁ〜。ああ、そういえば杏樹〜」

とはいえ、てっきりチェインとスティーブンの話になると高をくくっていたから、まさかこっちに振ってくるとは思わなかった。
K・Kに目を向けると、彼女はにやあと口角を上げた。
あっこれはろくなことにならないなと第六感が反応するが、僅差で手遅れだった。

「最近ザップとはどうなのよぉ〜」
「ザッ??!!」

これには、杏樹ではなくちょうど酒を飲んでいたチェインが蒸せた。

「杏樹、ザップのこと好きだったの?!」

私全然知らなかった……と愕然とした表情でつぶやかれ、次に「あいつは最低のSS野郎だけど、それでも杏樹が好きっていうのなら応援するよ」とイケメンも顔負けの決め顔で親指を立てられる。

「いや、あのね、」
「さあ! どうなのよ!」

反論しようと口を開くがK・Kに催促される。

「や、あの」
「そうね、まずはどこに惚れたのか言ってもらおうかしら!」
「えっ、それは」
「杏樹! 私も聞きたい!」
「そ、そうじゃなくて」
「あっそれとも馴れ初めから?! いつから好きになったのよ?!」
「だっだから、」
「ザップかっこいい?」
「あの、チェイン」
「どこまで進んでるの?! 手はつないだ? キスは?!」
「け、K・K……」
「それともそれ以上?! キャー!」

……結論。やはりろくなことにならなかった。
また一つ、杏樹のトラウマが増える。そんなヘルサレムズ・ロットの夜はまだまだこれからだ。


▼ ザップと夢主は今のところ(恋愛沙汰的な意味では)何もありません。
  (チェインには申し訳ないですが)夢主との恋模様は、現時点でスティーブンが優勢。
  2015/06/15(2015/08/24up,2015/09/05move)

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