あなたを縁取る運命は何色か ver2 「お前、面白いな」「――は?」 昼下がりのヘルサレムズ・ロット。 公園を歩いていると、通りすがりに声をかけられ、杏樹は振り返る。 どこか既視感のある青いコートにオールバックの金髪の少年だ。血のように赤い双眸とかち合う。 「器は人なのに、中身はまるでビヨンドだ」 深いような出鱈目なような台詞である。 記憶を探るが、話しかけられる心当たりがまるでない。自分たちは初対面だ。 ならば一体、彼はどういうつもりなのか。 「はあ、そうですか」 こうして生返事してしまうのも仕方がない。 道行く人々はナンパだとでも思ったのか、いや、そうではなくとも我関せずと通り過ぎてゆく。 HLでは、こんなシーンを見かけることはいくらでもある。一々気に留めるお人好しや物好きはいない。ともあれ別に、杏樹は注目してほしかったわけではないし、彼らにはぜひとも日常の一場面として忘れ去っていただきたい。 「お前とはまたどこかで会いそうな気がするよ」 ニヒルな笑みを浮かべ、彼は背を向け片手をあげた。 ひらひらと揺れる手の甲を眺めながら、脈絡の掴めない会話に釈然としない気持ちになる。 が、なんでもありなこの街だ。そして杏樹もすっかりそれに順応した住人だ。変な人だったなあと自己完結しただけで、踵を返そうとした。 「じゃあな、マ・ビシェット」 その別称で自分を呼ぶものは堕落王と偏執王のたった二人で、彼ら以外に知るものはいないはずだった。 全身から血の気が引く。 焦燥と危機感に駆られ、杏樹が再び振り返ったときには、すでに彼の姿はなかった。 ▼ マ・ビシェットは「神のいとし子」という意味です。 2015/06/12(2015/07/13up,2015/07/20move) ←back |