願ったり叶ったり ――硫黄島。先日、刑部蒔絵を政府から救い、ハルナ及びキリシマを同乗させたイ401は、半年ぶりに「蒼き鋼」の本拠地であるその島に到着した。 そこで彼らを迎えたのは、以前「蒼き鋼」との戦いで敗北したことがきっかけで仲間となっていた大戦艦ヒュウガ。そして、佐世保から横須賀を目指す道中で行く手を阻んだものの、イ401によって退けられた重巡洋艦タカオであった。 * 「蒼き鋼」の全体補佐を担当している杏樹は、ハルナとキリシマが身体検査を終えた蒔絵の元へ戻るのを見送った。 その後、船艇出航・物資運搬フロアへやってきたヒュウガに、イオナの被害状況と修復に必要な時間、また物資の量等について、改めて尋ねていた。 するとそこへ、顔を火照らせたタカオがとんでもないスピードで突っ込んでくる。止まりそうもなかったので横に避ければ、彼女はそのままコンテナに衝突し、煙を上げて沈黙した。 過去の重巡洋艦の威厳もないそんなタカオに、隣でヒュウガが胡乱げな視線を送る。杏樹は苦笑しつつも、どうしてタカオがこのような様子なのか、大体予想はついていた。 「……群像に会ってきたの?」 尋ねた瞬間、顔面をコンテナに突っ込んでいたタカオがぐりんと体ごと反転させた。 「ばばば馬鹿言わないでよね! わ、私はただ……!」 頬を朱に染めて声を張り上げるタカオを見て、恋する乙女は可愛いなあと杏樹は口元を緩めた。 「うん、わかってるよ。艦長というものがどんな存在なのか、面と向かって確かめてみようって思ったんだよね」 「そ、そうよ! いずれ私に乗らせてあげるかもしれないんだし!」 タカオはふい、といまだ赤い顔をそっぽに向ける。素直になれずに別の台詞を口に出してしまう姿も、またいじらしいものだ。メンタルモデルが「愛情」にここまで突き動かされることは、杏樹にとって興味深くもあるし、単純に微笑ましくも思う。 兵器としてしか存在理由を見いだせなかった者が、「愛する者」に必要とされることを目的に生きようとしているのだ。 「恋、って素敵だねえ」 しみじみと杏樹が呟けば、それにぴくりと反応したのはヒュウガだった。 「あら、あなたも恋をしているのではなくって? 杏樹」 何のことかわからず、首を傾げる。杏樹の左隣では、関心がないふうを装ってタカオが静かに聞き耳を立てていた。 「まあ私としては、杏樹かタカオ、どちらかが千早群像を虜にしてくれればいいんだけどね〜」 「とっ虜?!」 そう言うやいなや何かタカオが妄想に耽り始めたので、とりあえず杏樹はヒュウガの言葉に応えることにする。 「ちょっと勘違いしてるよ、ヒュウガ。わたしは確かに群像が好きだけど、それは恋愛感情としての好きじゃないよ?」 それを聞くとヒュウガは驚いたようで、目をぱちくりとさせた。 「わたしの愛情は、たぶん家族愛や友愛に似てると思う。もう何年も一緒に過ごしてるわけだしね」 ふうん、と零しながら、疑り深い目でこちらを見てくるヒュウガに、再び首を傾げることしかできない。 そんな杏樹を眺めてヒュウガは、私はそうは思わないけどなあ、と口の中で呟く。しかし、あまりにも一緒にいすぎて、気付いていないだけなのかしら、とヒュウガは一人で納得し、うんうんと頷いた。 彼女が自己完結する様子を傍で目にしていた杏樹は、半ば釈然としないまま、自らの恋愛談議を片づけたのだった。 ▼ ちょっと最後の方はタカオが若干空気になってしまいましたね……;; 2014/04/04(2014/05/26up) ←back |