アルペジオ→3W | ナノ
最果てにある幸せとは何か
――破滅の未来。
政府与党幹事長、北良寛。統制軍軍務省次官補、上陰龍二郎。彼らは二人とも、群像や杏樹たちの選択は、破滅を、そして死をもたらすと警告する。
「蒼き鋼」の行うことは、彼らの言う通り若気の至りでしかないのかもしれない。しかし、事は総じてやってみなければわからないものだと、杏樹は理解している。





僧、いおり、杏平。そして、静。
イオナのほかにも群像と杏樹がやろうとしていることに賛同し、共に戦ってくれる仲間がいる。それはどれだけありがたいことであろうか。杏樹は彼らのためにも、霧の艦隊との対立状況を解消したいと思っている。

霧の艦隊は意志を持つ。武力で打破することができなくても、共存することはできるはずだ。警告の言葉を発した二人は、この考えをどこかで見抜いていた可能性もある。

「そんな難しい顔して、どうしたんだ」

ぴくりと肩を震わせて振り返る。気付かなかった。群像が甲板に上がってきていたなんて。少し離れたところには、ひとでで遊んでいるイオナもいた。
我に返ると、急に五感が戻ってくる。視界は美しい青に満ち、波を始めとする様々な音が耳に入り、僅かなしょっぱさと、肌のべたつき、潮と鋼のにおいを感じる。

「ううん。別に」

誤魔化すように笑って返せば、群像に溜息を吐かれた。

「お前がそう言うときは、決まって『別に』ではないことが多い。伊達に何年もつるんでいないからな。ただ――杏樹が言いたくないなら、言いたいと思える日がくるまで待つさ」

苦笑する群像を眺めて、杏樹は「ああ、良い友人を持ったなあ」と嬉しく感じた。そしてつと、耳が良いためこの話が聞こえていたのか、イオナが「私も待つ」と宣言する。強く吹く風にも、その凛とした声だけは掻き消されず、しっかりと杏樹に届いた。

「そんなに大したことじゃないよ。わたしたちが行くべき道を、再確認してたとこ」

ああ、と群像が何かを思いついたようなニュアンスで声を漏らした。

「幹事長と次官補のせいか?」

図星である。言葉にも出せずに目を丸くしていると、群像はにやりと笑った。
まさかここまで言い当てられるとは。わざとぼかして言ったのに、と杏樹の頭を羞恥の二文字がぐるぐると回る。

「まあ、性分だし考えるなとは言わないけど。俺たちは自分の信じたもののために戦うだけだろ」

薄く笑む群像の傍らに、ひとでを持ったまま駆けてきてイオナが並ぶ。じっとこちらを見つめる翠蘭の瞳。

「そうだね。うん、そうだ」

二人が急に、とても頼もしく見えてきて杏樹は微笑む。そんな杏樹を目にして、イオナは双眸をぱちぱちと瞬かせ、群像は満足げに笑みを深くした。

自分はきっと、行く先がわからないからこそ、やれるところまでやりたいのだ。その末に得た結果が悪いものだとしても、それが自分の選んだものであるなら絶対に後悔はしない。杏樹は改めてその決意を、今日の広大な青い世界に誓った。


▼ 2014/04/03(2014/04/29up)
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