マイライト ――波崎杏樹の光。それは千早群像と、イオナ。 * 潜水艦イ401の甲板。今日も今日とて快晴で気温も心地よい。潮風のせいで髪が肌に張り付くが、そんなことにもとうの昔に慣れていた。むしろ今ではそのうっとうしさも愛おしく思う。 船の先端、鋼の柵に腕を預け、海に臨んでいた杏樹はおもむろに後ろを振り返った。甲板にぺたりと座り込んで拾ってきたひとでをつついたり伸ばしたりして遊んでいるイオナ。そしてその傍らに同じく腰を下ろし、柔らかな色をした瞳で彼女を眺める群像。なんだか少し微笑ましくも、羨ましくもあった。 杏樹が見ていることを察したのか、イオナはふと顔を上げる。 「……杏樹も触る?」 こてん、と首を傾げて問う。とても可愛い。イオナの綺麗な水色の髪が、まるで水が流れるようにさらさらと零れた。 もちろん断るわけもなく、杏樹もスカートを押さえてかがみ、イオナからひとでを受け取る。手で押したり伸ばしたりする度に、ひとでがじたばたする。いけない。くせになりそうだ。 意図せずにやけそうになる顔を必死に制御していると、群像がくく、と堪えるような笑みを漏らす。問答無用で脳天に制裁を加えたのち、再びひとでいじりに戻ろうとしたとき、イオナがじっとこちらを見つめていることに気がついた。 「イオナ? どうしたの?」 尋ねてみると「杏樹、これ、今度はたくさんもってくる」と、ひとでを指さす。どうやらイオナなりに、杏樹がひとでを気に入ったことを理解したらしい。相変わらず青い瞳には感情の色は映っていないが、それでも何か小さな灯火のようなものがちらついている気がした。 「うん! ありがとうね、イオナ」 杏樹が嬉しくなってイオナの水色の髪を撫でると、彼女は目をぱちぱちと瞬いた。慣れないスキンシップに驚いているとみた。ふふ、と微笑むと、イオナは再び小首を傾けた。 杏樹の脳天チョップから復活しており、その一部始終を見ていた群像はぽつり、「まるで姉妹みたいだな」と苦笑しつつ頭を掻いたが、すっかりイオナと二人の世界に入ってしまった杏樹の耳に、その言葉が届くことはなかった。 ▼ うちの群像は少しお茶目さんです 2014/04/02(2014/04/06up) ←back |