命を奏でるアルペジオ ――振動弾頭を届ける道のり。横須賀で大戦艦ハルナ、キリシマとの戦闘。その後硫黄島にて刹那の休息、そしてコンゴウとの戦闘。イオナ撃沈、決死の捜索。改めてハワイを目指す中で、イオナの姉妹、イ400及び402との戦闘。さらに、マヤとナガラを取り込んだコンゴウとの二度目の戦闘、和解。 本当に長い、長い旅だった。サンディエゴに着き、振動弾頭を託す。海軍の重役と握手を交わす群像を眺めながら、杏樹はしみじみとこれまでの記憶を思い返していた。 * サンディエゴから再びハワイを経由して、タカオのメンタルモデル修復のために一度破棄した硫黄島へ戻る最中。ハルナ、キリシマ、蒔絵の三人はそのままハワイに滞在することにしたようだった。蒔絵が戦闘を望まないことを理解しての最良の選択であると言える。 硫黄島にて元のメンタルモデルの実体を取り戻したタカオが、この直後群像に抱きつき、それにヒュウガも便乗してイオナにダイブするという事件があったが、イ401は無事出航した。 敵の艦影も見えず、海面に浮上して安定した航行を続けるイ401。甲板には群像、イオナ、杏樹の三人が海に向かって立っていた。 今日は波も低く、風も穏やか、気温も丁度良い上に、晴天。新たな旅立ちの日にはもってこいの素晴らしい日和だ。 「――なあ、イオナ。俺たちと出会ったときのこと、覚えてるか?」 青くきらめく海を眺めたまま尋ねる群像に、イオナが「うん、覚えてる」と答える。 それを聞いて、今度は杏樹がイオナに尋ねた。 「そのとき、私たち、どんな顔してた?」 「情けない顔してた」 間髪入れずに返してきたイオナに、思わず群像と杏樹は顔を見合わせ、笑ってしまう。 潮のにおいの乗った風が柔らかに吹きすぎてゆく。 「そうだな。あの頃は世界に風穴を開けてやろう。そう思っていた」 感慨深く、ひとつひとつの言葉を噛み締めるように群像は応えた。 「風穴、開けられた?」 イオナが群像と杏樹、それぞれを覗きこんだ。その翠蘭の瞳には、優しい光が灯っていた。以前のほのかな揺らめきではない。穏やかで、でも力強い、そんな灯火が。 「ああ。世界は変わっていくさ」 「ここまでやってこれたのも、イオナのおかげだよ」 群像は微笑み、杏樹はその水色の絹のように滑らかな髪をそっと撫でる。 白波が美しく顔を覗かせ、海の道を切り開き、艦のボイラーが高らかに声を上げた。どこからか頼もしい海鳥の鳴き声も聞こえてきて、新たな旅のはじまりを祝福していた。 「「ありがとう、イオナ」」 二人が感謝の言葉を告げると、イオナは控えめに、それでも一輪の花が零れるように、表情を綻ばせた。この瞬間の、青い世界に映えるその笑みを忘れることは決してないだろう。 蒼き鋼のアルペジオは、彼らと共に、これからも世界を変えていく。 ▼ これをもちまして、アルペジオシリーズはお仕舞いとなります。今までお付き合いくださりありがとうございました! 詳しいあとがきはこちら 2014/04/04(2014/07/13up) ←back |