それはつまり愛です
※敦視点






























自殺マニアやキレると激怖な治療厨の美人さん、ブラコンである(自称)妹と彼女にかわいそうなほどべったりと纏わりつかれている苦労人、どこまでも我が道を行く探偵や、どこまでも予定を大切にする眼鏡のあの人とか……。

本当はまだ紹介すべき人達はいるのだけど、この場では割愛させてもらおう。

――ともあれ、そんな変人揃いの武装探偵社だけれど、そんな中にも常識人は存在する。


それが波崎杏樹さん。

僕より一つ年上で、容姿は金髪碧眼。いでたちは外国人だが、実際はハーフで日本語も堪能だ。
人当たりも良く、探偵社に入りたてな僕にも嫌な顔せず優しく話しかけてくれる。与謝野さんとはまた違ったタイプの『お姉さん』という印象を受ける彼女の能力は、『無能力』という一風変わったものである。





依頼人がいないので来客用のソファに座らせてもらって、しかしすることもないのでぼうっとしていると杏樹さんが「敦くん、何か飲み物でも飲む?」と覗きこんできた。

「あっ、はい、ありがとうございます! いただきます!」

反射的に背筋を伸ばして答えると、杏樹さんに笑われてしまった。
彼女のような上品で綺麗な笑みを見たのは初めてで思わず見惚れていたら、今度は別の方向から笑い声が聞こえてきた。それは前方の少し離れたデスクに就いていた太宰さんのものだった。

「初(うぶ)だね〜敦くん。でも杏樹はダメだよ」

口元は笑ってますけど、目元が笑ってません太宰さん!
それはもう冷や汗モノで、もう二度と杏樹さんに見惚れないようにしようと心に決めた。

「じゃあ敦くん、飲み物何がいいかな? 紅茶とコーヒー、あとはコーラと麦茶があるけど」

太宰さんの発言に苦笑しつつ、杏樹さんが改めて尋ねてくれた。
僕はよろこんで紅茶をお願いすることにしたのだけれど、杏樹さんが白湯を沸かしにこの場を離れてもいまだ太宰さんの視線がしていたので、おそるおそるそちらに目を向けた。

「杏樹のいれるお茶はどれもおいしいんだよ。特に紅茶はね。あの無愛想な社長も好んで飲むくらいなんだ」

にこにこと笑う太宰さんのこの笑みには、さっきみたいな有無を言わせぬ圧力はなくて、ただただ優しさが滲み出ていた。
それを目にして、「ああ、この人は本当に杏樹さんを愛しているんだなあ」と今まで自殺マニアな面しか見てこなかったこともあって、ちょっとだけ見直した。

でもそののちに、太宰さんが杏樹さんを何度も入水心中に誘っていることを本人から聞いてしまって、彼がやはり歪みのない自殺マニアであったことを再確認せざるをえなくなり……。
太宰さんを幾らかでも見直していたことを少し後悔したのであった。


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  2013/08/29(2013/08/30up)
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