戯言を重ねて塔を建てよう
※2巻の話


































「あっれ、鏡花ちゃんと梶井さんが行っちゃったの?」

いつもの黒い部屋。真っ暗な闇が帳を下ろした部屋。
携帯を片手に革張りのソファに深く座り込んだ芥川に、丁度部屋に帰ってきた絢は声をかけた。彼女は今まで別件で動いていたのである。絢は普段通りに向かい側のソファにどさりと腰を下ろす。その勢いをつけた品のない座り方に、芥川の眉がぴくりと動いた。
携帯の向こう側からは、絶え間なくノイズのようなものが届く。絢の位置からでははっきり聞こえないが、それはおそらく戦闘音なのだろう。

「ねーえー、ヤツガレセンパーイ、答えてくださいよぉー」

わざと芥川を挑発するような間延び気味の口調をする絢の背後で、部屋に入ってきたころから感じていた背後の気配がまるで肩を震わせるように動いた気がした。芥川は一度絢の後ろのその闇に眼を飛ばしたあと、咳をした。
珍しく怒らず自分のことを殴りもしない芥川を前に、この理由はおそらく己の背後にいる人物が関係しているのかも、と少しだけ誰かもわからない者に感謝をする。

「そうだ」

芥川は短く返事をし、直後に携帯に向かってなにやら言葉を飛ばした。
電話口から聞こえてくるアルトボイスから察するに、通信相手は泉鏡花のようだった。

「……鏡花ちゃんは、多分、もうダメだね。役に立たない」

ぽつりと呟いた絢の独りごとに、芥川がようやくこちらを見て、無言で片眉を上げた。
要するに話を続けろということらしい。
絢は苦笑して、改めて口を開く。

「私はねぇ、鏡花ちゃん個人は好きなんだよー。仲もいいし。でもだからこそ、あの子の性格じゃこの組織には向いてないってわかってたの」

芥川はなんだかんだ言って最後まで鏡花を扱き使う気でいたらしいが、絢はそれに対し、鏡花の心中を察して嬉しいやら悲しいやら、複雑な気持ちだった。
彼女には結局、この組織以外に居場所はなく、人を殺めることが嫌いでも、ここにいるしか選択肢がなかったのだから。

――ああ、だけど、もしかすると。

そのときふと、絢の脳裏に一つの可能性が過った。
無意識に口角が上がり、表情に笑みが浮かぶ。芥川は俗物を見るような心底嫌悪した視線を彼女に向ける。
しかしそんなことは日常茶飯事で、随分前から慣れてしまっている絢は、ただその笑みをまた深くしただけであった。
絢は芥川とのこのやりとりを察して、背後の気配がまた震えたのを、今度ははっきりと感じ取った。


▼ 背後の気配はもちろん太宰さん。彼が震えているのは、終始年下から挑発されているけれども反応しないように我慢している芥川さんへの笑いを堪えようとしているからです← ちなみに絢の脳裏によぎった可能性は、敦が鏡花ちゃんを助けているかもしれないという可能性です
  2013/09/18(2013/12/02up)
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