おまえが泣崩れる姿を見てみたい。ひずむおまえの瞳を舐めてみたい。よごれたおまえを愛したい。 ※槙島が偽者すぎるので注意。※男主side その女のように白い肌を、 その女のように色づいた唇を、 その女のように光に輝く蒼穹の瞳を、 その女のように美しい金色(こんじき)の髪を、 何もかもを乱したいと思った。 行き場を失った激しい感情は、その貌に笑みを張り付け、彼に荒く強く触れることで昇華される。 「――いてえよばか」 お世辞にも寝心地がいいとは言えないベッドに横たわるゆずの傍らに腰を下ろす。 頬に優しく手を添え、少しばかりきつめに力を込めると、彼が眉根を寄せて顔を顰めた。 その表情すらも憎らしく、同時に愛おしい。 そう、狂おしいほどに。 「俺にあの人を重ねるのはやめろ、とは言わねえよ」 ゆずは僅かに緩められた僕の手に、自らのそれを重ね柔らかな手つきで包み込む。 どの季節が訪れても静かで冷たいこの格子の中、彼だけがひどくあたたかい。不愉快だ。しかし自分が欲しがっているものはそれなのだ。彼と同じあたたかい、光に満ちた人間だ。 「でも、苦しくないか。お前は、苦しくないのか槙島」 そう言葉を紡ぐ彼の方が、その端正な顔を歪め、苦痛を表している。ああ、気持ちのいい。なんて気持ちがいいのだろう。身体的でも精神的でもなんでもいい。彼が痛みに苦しむ表情は、見ていてとても興奮する。 「気持ち悪ィ顔」 ケッと吐き捨てるようにそっぽを向く。 それすら、僕の知識欲の対象だ。 もっと、もっと多くの表情を見せてくれ。憤怒、歓喜、哀切、寂寥、慟哭、困惑、彷徨、憎悪、なんでもいいなんでもいい。そして僕だけに見せてくれ。君の、その美しい表情で、愛憎と辛苦を。それを目に焼き付けることができれば――。 「……とはいってもやっぱり結構、苦しそうだけどな」 ぼそりと聞こえた言葉は、本当に小さく、一部しか聞き取ることができなかった。 訊き返すこともできたけれど、そうするのは癪で。それとともに返ってくる答えはきっと僕を不快にするだろうと確かに感じた。 彼は聡い。 本当に聡い。 だからこそ気づかれないようにしなければ。 柔らかく拒絶して、これ以上近付かれないようにしなければ。 そうしなければ僕は彼を壊すとき、せめてもの慈悲をも、なくしてしまうだろう。 彼が僕を憎いと思う気持ち同様、僕も彼をひどく憎むだろう。 日に日に彼女に似ていく彼を、赦せないだろう。 ――そうやって壊すのもいいかもしれない。 いや、でも僕はマゾヒストではないから、自分が傷つくのは嫌いだ。 ならばやはり、僕も彼も、お互いに近付くべきではないのか。 全ては彼が原因だ。 望んだ光が遠すぎて、闇に呑んだ光に触れた。 昏い場所に沈んだはずの光は、それでも光には限りなく。 絶えない欲求と彼女に似ていることから湧き上がる憎悪が僕を食らう。 ――彼の最期まで。彼女を手に入れるまで。 僕は何度でも、彼を愛そう。 ( それしかきっと、方法がない ) ▼ PP夢むっつめです! 再びin監房。作中の『彼女』はPP夢女主の『杏樹(デフォルト名)』のことです。槙島は本当は彼女が欲しかったけど、手に入れることができなかったという話。 2013/02/07(2013/05/05up,2013/08/13moveagain) ←back |