淡い日のなかに置いてきた物がある ※ 実際は公安局内はそんなに騒がしくないけど、騒がしいもとい賑わしかったらいいなあという管理人の願望が反映されています。※ あと公安の刑事課三係の職務を少し捏造してます。 ※ 必ずこちらの注意事項を読んでからお読みください。 ――平日の公安局。 一係のブースの外では書類を片手に局員がばたばたと廊下を走ったり、時にはそれぞれが受け持つ事案に関しての意見交換という名の井戸端会議が行われていたりでなかなかに騒がしい。 しかし内側となれば、一係の面々が無言で黙々とキーボードを叩いていた。 先日起こった連続爆破事件の事後処理に追われているのだ。 事件のあらましを記した報告書はもちろんのこと、被った不利益の算出や、破壊された設備の修繕願い、交通封鎖を行いエリアストレス警報を発令したことに関連した交通課、安全課への書類等々。 市民から見れば、公安の一係など、ある種エースのような存在で、ただ起こる事件を解決するだけが仕事だと思われがちだ。けれどその裏ではうんざりするほどの事務作業が割合を占める。 「一係のみなさん〜差し入れですよー」 ある者は涼しげな顔で、ある者は眉根を寄せて――キーを弾く音だけが響く空間を裂いたのは、ブースの入口で紙袋をぷらぷらと遊ばせる金髪の男だった。 「なんだ……ゆずか……」 パソコンの画面から顔を上げて、宜野座が沈鬱な声を向ける。こめかみを揉み、改めて問う。「差し入れはなんだ」。その言葉にずっこけ、ツッコミを入れたのは霜月だった。 「あのですね、宜野座さん。いくら、その、恋人とはいえ、他係の人間から職務中に油を売られるのはどうかと思いますが」 恋人、というワードに少し言葉を詰まらせたものの、それ以外は彼女らしい冷淡な指摘である。いささか棘があるのが否めないが、それは霜月の常なので気にする必要はない。 対してほかのメンバーの反応は薄い。 朱や杏樹、六合塚は長年の付き合いで慣れていることであるし、執行官二人はこれがゆずとのファーストコンタクトなのである。つと、見知らぬ顔に気づいたらしいゆずが、挨拶をはじめる。それを横目に見やりながら、杏樹は苦笑する。 「まあ、いいんじゃないかな。ゆずも仕事をサボって来てるわけじゃないし、ギノもこれくらいじゃ仕事に支障は出ないし。それに、たまには美味しいものを食べて気分転換するのも、仕事の効率をよくするには有効だと思うよ」 霜月はそれを聞いて、「それは、そうですが……」と言葉を濁らせる。 杏樹は朱よりも二年長く監視官を務める人物である。それゆえ考え方が朱寄りだとしても、霜月は一目置いているのである。 「そういうこと! だから、今日はシュークリームを持ってきました!」 素早く挨拶回り(といっても二人だが)を済ませたらしく、ドヤ顔で紙袋を掲げる男を、どう見ても三十路越えだと思いたくないというのは、このときの正直な霜月の心の声だった。 「いやあ、俺も秀星も三係に飛ばされたじゃん? そしたら案外そこが暇でさあ。や、主に盗難担当だから事件数は多いんだけど、書く書類はそこまで大変じゃないんだわ」 あ、ちなみに秀星はさっき三係のメンバーと話してたから連れてこなかっただけね。 波崎ゆず、そして縢秀星。 彼らは数年前の槙島聖護を巡る事件のあと、公安局に戻ってきた元一係の執行官である。 元々ゆずは槙島事件よりもさらに前に、犯罪係数が急上昇したことで監視官により射殺され、加えて縢は槙島を追う最中に、ノナタワー最深部にて敵一派と交戦後逃亡、行方不明になったと記録されている人物である。 しかし、現在その事実はデータから削除されており、それを知るのは杏樹たち槙島事件に関わっていた者だけである。 実は生存していた彼ら二人は、様々な経緯から再び執行官として公安局に復帰することとなった。 つい最近まではおそらく、監視という上層部の目的もあったようで、一係に所属していたが、それも済んだのか一係の新たな執行官配属と入れ替わりに、三係に異動となった。とはいえ二人とも、しょっちゅう一係に「遊びに」来ている。 「じゃあ遠慮なくいただきましょうか」 朱が椅子から立ち上がると、すかさず六合塚が全員分のコーヒーを入れるため、コーヒーメーカーの元へ。慌てて新人執行官二人が彼女を手伝いに行く。 霜月は仕方がない、といった様子で溜息をつき、そんな彼女へにこやかな笑顔でゆずが小袋に入ったシュークリームを手渡す。 「……」 すると無言で宜野座が催促し、ゆずは苦笑いで渡しに行く。それを杏樹は微笑ましげな視線で見やった。 仕事の合間の休息。 不服そうな者もいるが、なんだかんだでみな、気を緩め息を抜くことができている。それは杏樹も例外ではなかった。 ただ彼女は談笑しあう中にも、頭の奥に何か妙なしこりが残っていることに気づいていた。なんとくなく、この休息が「本当の意味の」休息になってしまうのではないかと。そんな不吉な予感を覚えていた。 ▼ アニメ二期沿い第一弾。 2014/12/21(2014/12/30up) ←back |