ユニバース級の幸福をキミへ
※現実世界での未来機関の本部は、ゲームでもソニアと日向が雑誌で知ったように、ジャバウォック公園の銅像のあたりにある大きな建物。その場所で日向たちはプログラムにかけられていたということが前提にあります。
「――おはよう、狛枝」
ボクみたいなゴミクズがこんなこと思うのもおこがましいけれど、目覚めると好きな人がいるのってやっぱり嬉しいよね。今すぐにでもこの喜びで死んじゃいそうだよ。
*
変わらぬ笑顔で迎えられ、ボクは思わずその眩しさに瞳を細めた。
長い長い眠りから目を覚ましたばかりだから、元々あまりなかった筋力がさらに落ちてしまって、杏樹さんに支えてもらいながらじゃなくちゃ起きられなかった。
情けないなあと独りごちると、仮想世界のころよりも随分と大人びた杏樹さんにくすくすと笑われる。それが癪に障って「ボクと同じように眠ってたはずなのに、どうしてキミはすぐに動けてるのさ」と口を尖らせると、「年の功ってやつかな」とさらりと微笑まれる。一歳の差って思ったより大きいような。大人の余裕なのかな、こういうの。ちょっとだけ不満だった。
「……ねえ、」
こうしてボクの意思がはっきりして、なおかつ絶望更生プログラムでの記憶を持ったままであるということを再確認すると、杏樹さんは次々と目覚めつつある他のみんなの元へ行こうとする。それが嫌で彼女のスーツの裾を引っ張った。我ながら子どもっぽいなあと思うし、杏樹さんみたいな素晴らしい素敵な人をボクなんかが引き留めるのは万死に値するだろうけど、でも、どうしても、
「杏樹さんは、ボクだけの希望になってくれる?」
命を賭けたコロシアイのゲーム。
刻一刻とカウントダウンが迫るあの日、彼女はボクのコテージにやってきて、ボクの計画を防ぐために、強い意志を帯びた瞳でこう言ったのだった。
『この世界がゲームだとしても、この世界に生きる狛枝は、みんなは、ゲームなんかじゃない。ここで死んだら、本当に死んじゃうんだよ。そんなの、わたし耐えられない。大好きな狛枝に、死んでほしくない。……狛枝が、自分が絶望であることに耐えられないのなら、わたしは、あなたの希望になるよ。希望になって、あなたを絶望から救ってみせる』
好きになった女の子に、ここまで必死に言われてまで突き通す信念なんか、ボクは持ち合わせていなかった。所謂惚れた弱みだよね。
あのときの言葉を、仮想世界から出た今も、言ってくれるのなら。
――ボクはもう、二度とキミを離したりしないよ。
彼女はふふ、とおかしそうに笑みを零した。
「何言ってるの、凪斗。そんなのわかってるでしょ? わたしはいつだって、あなただけの希望だよ」
ああ、
ああ、本当にこの世界に神様なんて存在がいるのだとしたら。
ボクみたいな社会の塵のような人間に、波崎杏樹という愛しい人に出会わせてくれたことを感謝しよう。これほどまでの幸福を与えてくれたことに感謝しよう。
ボクは、今、とてもとても幸せだ。
▼ 作中の回想の台詞ですが、実際はモノクマの監視の目から逃れるために『話す』ことができなかったので『書いた』んですけどね。ちなみにその回想は『或る透明〜』の直後みたいな話です。
多分、これから訪れるかもしれない絶望も、二人一緒なら乗り越えられると本気で思い始めているゲーム後の狛枝でした。心から愛した人がいるっていうのは、やっぱり違いますね。
2013/08/01(2014/01/27up)
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