Why need I go through the escape?
次々と仲間が死んでいく絶望。
自らの存在に対する絶望。
ここに留まることへの絶望。
ここから出ることへの絶望。
――何もかもに、絶望。
わたしは、同じように裁判に参加しているみんなをじっと見守った。
わたしの役目は、みんなの行く末を照らすこと。
卒業『裁判』も終盤に差し掛かり、その時点でわたしは今まで抱えていた思いや意見、思い出した記憶……すべてを、出し切った。未来への座標は指し示した。
あとは、みんながどんな選択をするのか。仲間たちに未来を託す。
モノクマ――結局はウイルスだったわけだが――が変化して現れた江ノ島盾子は、狂気を孕んだ笑みでじわじわと日向くんたちの心に絶望を侵食させる。
わたしを除く苗木くん、十神くん、響子ちゃんの未来機関の三人は、揃って心なしか固い表情を浮かべていた。
しかしわたしは、おかしいくらいに落ち着いた心持で裁判を見つめていたのだ。
どうしてなのかはわからない。ただ、『なんとかなる』と思った。
日向くんたちなら、きっと、なんとかできる。なんとかなる、って。
*
――それまでの時間は、ひどく長かった。
多分、七海ちゃんが助けに来てくれたのかな、とぼんやりと思う。
重く苦しい絶望の沈黙を破り、最後に江ノ島盾子に強力なコトダマを撃ち込んだのは、やっぱり彼だった。誰よりも常識人で誰よりも希望ヶ峰学園に憧れていて、でもだからこそ誰よりも自分の才能に絶望していたはずの、日向くんだった。
「絶望も希望も関係ない! ただ俺達は自分自身の未来を、みんなが創ってくれた未来を信じてるんだ! 自分の未来と戦えば、未来だって創れるって信じてるんだよ!」
その力強い表情に、言葉に、江ノ島盾子が顔を歪めた。
どこまでも揺るぎのない決意。行く先には絶望があるかもしれないというのに、それすらも省みない溢れんばかりの希望の光。
隣の狛枝なんか、もうその希望を目の当たりにできたことが嬉しすぎて涎を垂らし鼻息を荒くして興奮していた。……うん。目覚めたら全力で逃げた方がいいよ日向くん。
ちらりと未来機関の三人を見やると、彼らは満足げに薄く笑んで、しっかりと頷いた。
「……じゃあ、するべきことは決まったね」
わたしはみんなに笑いかける。
「もちのロンだぜ!」
左右田くんが真っ先に親指を立てる。
「ええ。みなさんが託してくれた未来ですものね」
ソニアちゃんがふわりと微笑む。
「フッ、そうだな。ペコのためにも、前に進まないとな」
続いて九頭龍くんが口角を上げた。
「おうよ! 絶望も希望も全部まとめてオレが相手してやらぁ!」
終里ちゃんが拳を握り締めた。
「どうなるかわからない未来なんて、ほんとゾクゾクするよね」
そして狛枝が自分の両腕を抱いて、怪しく笑う。
――そのあとで。最後に日向くんが相変わらずの狛枝に苦笑しながら、しかし高らかに宣言した。
「絶望とか希望とか、そんなのは全然関係ないんだ。俺たちは俺たちだけの、新しい未来を創るぞ!」
江ノ島盾子を一瞥する。彼女は悔しげに歯を食いしばっていた。
……あなたの絶望は、これで本当におしまいだよ。
絶望に溺れた可哀想な女王さまに、心の中で餞別の一言を零した。
絶望ですらなく、希望ですらない『これから』を創りに。
ちょっと未来まで、片道切符で行ってきます。
――七海ちゃん、みんな、本当にありがとう。
▼ タイトルの意味はおそらく「どうして逃げる必要が?」。お題を見た瞬間、これだ!と思いました。「どうして逃げる必要が?『いいや、逃げる必要なんかどこにもないんだ!』」という日向くんのような前向きなメッセージをイメージしてます。
かなりの駆け足でしたが、原作沿いはここまで。補足を経て次回からは後日談編になります
2013/07/31(2014/01/07up)
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