或る透明と嘘吐きの話
狛枝が自分自身を殺すというおぞましい計画を立てていると察したのは二日前のことだ。

それは半ばモノクマに喧嘩を売る形で行われており、傍から見ればどうにも狛枝は未来機関という存在の意味を履き違えているかのように思えた。

いまだにタイミングが掴めずにみんなに伝えることができていない事実だったけど、わたしは未来機関が悪い組織ではない確証を持っていた。
だからこそ、狛枝の計画を実行に移させるわけにはいなかった。
ただその一心で、弐大くんを殺した犯人を突き止める四度目の学級裁判が終わり、夜が明けた今日、狛枝のコテージに来ていた。
狛枝は他のみんなとは異なり、なぜかわたしのことだけは避けずに快く迎えてくれた。

モノクマに気づかれるわけにもいかなかったので、狛枝の本棚から一冊拝借して、その本を開く。
ベッドに並んで腰を下ろし、共に読む振りをして本の内側に置いたメモ帳で筆談を交わす。狛枝は時折、モノクマに悟られない程度に普段の変態臭い発言で応えていた。





「……うん、杏樹さんの言いたいことはわかったよ」

珍しく灰色の瞳は真面目さを帯びており、ああこの事実を受け入れてくれたのだと安心した。しかし狛枝の言葉は続く。

「キミが話してくれたことの中で、一部分はきっと希望ヶ峰学園ファイルに書いていたかな……」

狛枝は、その内容を思い出すかのように虚空を見上げた。

わたしが話したことの一部はこうだ。

モノクマが未来機関――モノミと敵対しているなら、モノミはどうしてわたしたちをこの島に閉じ込めるような真似をしたのか、という疑問に繋がる。

そして、またここは現実の世界ではない可能性が高かった。
なぜ『超高校級』の才能を持つ人材をバーチャル世界に閉じ込めたのか。
そんなことは考えなくてもわかる。『そうしなければならない』理由があったからだ。

一方で、『閉じ込める』――要するに『隔離する』――という表現に着目すると、『閉じ込められる』対象は普通に考えれば『危険な』ものにあたる。

ここまでの推測を整理すると、つまりそれは、わたしたちが『超高校級』という希望でありながら、同時に『記憶を消さなければならないほど』『危険な』存在であったということだ。とすると、モノミはそんな『危険な』わたしたちを監視する立場であったのかもしれない。


これと似たことが、あのファイナルデッドルームのクリア特典である希望ヶ峰学園ファイルに書かれていたとするなら、狛枝のマスカットハウスでの豹変ぶりにも頷けた。


「でも、ここまでわかるなんて、さすが杏樹さんだね。あのファイルがなかったら何も気づかなかったゴミクズのボクなんかとは大違いだよ」

狛枝は気味が悪いほどまでに笑顔だった。

「だけどね、そこまで理解した杏樹さんならわかるはずだよ。ボクがどうしてボクを殺そうとしているのか。それに、これは杏樹さんを救うことにも繋がるんだよ? ボクはむしろ、説得されるより喜んでほしいかな」

本はそっと閉じられ、床に捨てられる。

そうして優しく押し倒されて、わたしはただ戸惑った。
爽やかに微笑む狛枝の顔が近付いてきて思わず瞳を強く閉じると、狛枝はくすくすと笑った。からかわれた、と思い狛枝を睨むつもりで目を開けたのはよかったが、同時にリップ音と額に柔らかい感触がして頭の中が真っ白になる。

狛枝に目を合わせると、その灰色がとても愛おしそうな色をしていたから、自分が何をされたのか自覚してしまって、急に恥ずかしくなった。

「キスなんかで誤魔化さないでよ、」
狛枝はずるい。

そうぽつりと呟けば「弱ったなあ……」と頭を掻く狛枝。

「そういう表情されると、全部話したくなっちゃうんだよね……」

眉根を下げて頼りなさげに笑っているのは、いつもの狛枝だった。
その顔を見て、どうにも彼を引きとめたく思ったのはなぜなのだろう。狛枝がどこかに行ってしまうなんてこと、ありえないのに。

切なくなる心を紛らわせるように狛枝に抱きつくと、「どうしたの、杏樹さん」と優しい声音。
それを聞いてますます離れがたくなってしまって、抱きしめる腕に力を込める。

まさかここまで、狛枝のことを好きになるなんて思いもしなかった。


「どこにも行かないでよ、凪斗。……約束、だからね。破ったら許さない」

まるで拗ねた子どものように一方的に言い放つと、「……はは、本当、杏樹さんには敵わないなあ」と狛枝が困ったように笑った気がした。


▼ まあ狛枝がゲーム通り死ぬフラグだと思わせて、夢主が助けちゃうんですけどね!←
  狛枝も自分がどうしようもない絶望だとわかっても、それでも夢主と生きていたいという気持ちもあって、相反する感情の間で彷徨っていたんだろうと思います。
  だからこそ、夢主に自分の計画に全く気付かれずにいることもできたのに、わざと悟られるようなことをしたのかなあと。そして書いているうちになぜか夢主のデレ期が来ていたという不思議。
  2013/07/29(2013/09/15up)
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