罪なきその手にどうか救いを リヴァイが「死なない」のではなく、「死ねない」のだと。気づいたころには何もかも遅かった気がする。 すでにリヴァイは人類最強としての才覚を発揮し始めていたし、わたしはわたしで『戦場の天使』だとか『世界最強』だとか、くだらない別称を名づけられていた。 わたしには『死神』の方がよく似合う。 『戦場の死神』こそ、わたしに相応しい二つ名だ。 日常生活ではともあれ、戦場においてはリヴァイのように優しくない。 庇っていては任務に支障が出ると判断すればすぐに捨てる。 堕ちていった仲間を看取る瞬間すら存在しない。 そんなことをしていては、今度は自分が巨人の餌食になるからだ。 そんな非情なわたしを、以前『悪魔』だと言った同期がいたが、それも尤もであると思う。 リヴァイはほんの少しの温情を、戦場でも忘れない。 わたしよりかなり優しい部類だと勝手に思っている。 一度素直に口に出したことがあったが、そのときは弁慶の泣き所を全力で蹴られた。 彼は死んでいった仲間を背負っていく。 物理的な意味ではない。精神的な意味でのことだ。 だからだんだんと、「死ねなく」なっていった。 * 口が悪くて目つきも悪くて、どれだけ潔癖症で厳格でも、彼はとても優しいひとだったから。多くの死を背負ってしまった彼に気づいたとき、わたしは誰よりも自身を責めた。 仲間の死に疲れて、感情を殺すようになったわたしとは違って、彼はずっとその感情と向き合って、今までもこれからも共に生きていくつもりなのだ。 それすらも理解してしまったとき、わたしは自分が塵よりも矮小で卑怯な人間であると悟った。 殺して、と啼泣ながらに懇願したわたしに、彼は淡々と生きろと返した。 軽蔑するでも、嫌悪するでもない、何の感情も浮かばない瞳に晒されて、わたしはそれにひどく恐怖した。初めて彼に恐怖した。 「俺の背負う分を分けてやる。だから生きろ」 その言葉をきいて、わたしは彼に畏怖を抱いた。 ただ単なる恐怖ではなく、尊敬と敬愛の混ざったそれを抱いた。 こんな最低の人間にも、彼は慈悲を与えてくれるのだ。 彼の優しさを痛いほどに理解すると同時に、わたしは「死ねない」彼のために生きたいと願った。 そうしてあの日。頷いたわたしの迷いのない瞳を見て、「いい目だ」とリヴァイは口角を上げた。 ( 罪なきその手にどうか救いを ) ▼ 人類のために戦っていた夢主が、リヴァイのために戦う覚悟をした瞬間。でもそれは心臓と捧げることと同義ではありませんが;; 2013/04/28(2013/09/26up) ←back |