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地獄にて救済
まるで空から下りてくる天使だと、誰かが言った。





地獄に救済の手はない。
よってもちろん、天使など存在しない。


しかし一体誰が言い出したのか、不本意ながら自分は天使だった。

そうやって祭り上げられるだけで民衆の士気が上がるのなら、軽いものだと思ってずっと放っておいた。
時折リヴァイやエルヴィン、ハンジに愚痴を零すことはあったが、別にそれ以上でも以下でもなかった。

――訓練兵たちに、期待の篭った眼差しで見つめられるまでは。

どうも今年の訓練兵たちは逸材揃いということで、調査兵団団長直々の命が下って、104期生の面倒を見ることになった。
そこまではよかったのだが、問題はその自己紹介のときだった。

自分が前に出るや否や、訓練兵たちは一斉に落ち着きをなくした。
教官の一喝でようやく本来に静けさを取り戻したくらいだ。
そのとき彼らがしていた私語の一部や、眼差しは、わたしが嫌うタイプのものだった。

誤解を防ぐために断っておくが、別段わたしは憧憬の対象となることに嫌悪感を抱いていない。
ただ、神聖化されたり、絶対的なものとして信託されるのを好かないだけだ。
訓練兵たちがわたしに向けたのは、後者であった。


わたしは天使と呼ばれるほど聖人ではない。
そんな神々しいほどできた人間では、決してないのだ。
卑劣で卑怯なことも平気でするし、愚鈍なせいで過ちを犯しもする。そんな、普通の人間だ。

だから向けられる期待に応えることはできない。

わたしは君たちが望むようなお人好しではないし、だからこそ戦闘では問答無用で見捨てることもある。
しかし君たちが死んだ後でなら、その期待に応えることはできる。

わたしは、君たちが巨人によってどれだけ残酷な殺され方をしても、死ぬ前に確固として描いていた信念を背負うだろう。
君たちの死を背負うことはできなくとも、君たちの威信を背負うことはできるだろう。
それが人類の未来へ繋がる、真の救済だとわたしは思っている。





――自分で言うのも難だけど、そういう意味でならもしかすると、この地獄にも救済はあるのかもしれないし、あるいは天使も存在するのかもしれない。


( 地獄にて救済 )


▼ 死んだ者の信念を背負って生きる過程ならば、周囲からどんな風に見られようと別に構わないと思っている夢主の話。
  2013/05/05(2013/09/15up)
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