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従順なる金色少女の作り方
お前の部下は従順か。

以前尋ねられたことがある。
もちろん尋ねた相手に深い意味はなく、ただ単にやっかいな部下がいないかを案ずるものだったのだろう。

このとき、リヴァイの脳内に浮かんだのは、一際目を引く金髪碧眼の女だった。





随分年月が経ったため、なんと答えたのか覚えていない。
ただある種従順で、時には否だと答えたようなそうではないような。
それにしてもなぜ今このタイミングで思い出したのかが不思議でならない。
歳を取ると昔のことが自然と思い返される日々が多いと聞くが、まさかその前兆だろうか。

執務室。
机に向かい今後の壁外調査の経費を計算していたリヴァイは、こめかみを揉んでため息をついた。
常時装備中の眉間の皺は、普段より濃く刻まれている。先ほどまで動かしていたペンは無造作に転がっていた。

金髪碧眼で、年齢的には同期といえるアンジュ・ハサキという女は、リヴァイにとって背中を任せられる同志であり思いを共有し合った恋人でもあった。
はじめは、外見はまったくの西洋人であるのに名前は東洋かと胡乱げに感じていた。その上、三枚の壁を隔てた向こうは巨人の蔓延る地獄というご時勢にも関わらず、一切憂慮していない無駄に明るい笑みを浮かべるところに、苛立ちを覚えることもあった。
しかしやたらと話しかけてくる彼女を適当にあしらっているうちに、否が負うにもその人柄がわかっていった。

それと同時に、「ああ、こいつは早死にするな」と、当時まだ恋人ではなかったリヴァイは不分明ながらに感じた。なぜなら感受性豊かな人間は、仲間の死に耐え切れないからである。何もかもを背負おうとした結果、人の死が与える哀情や責任に潰されるからである。

だが後にリヴァイは、彼女を過小評価していた自分に気づいた。
彼女は壁外調査に出て、巨人を屠り、仲間の死を目の当たりにするごとに、戦闘面においてその能力が洗練されていった。仕舞いには男のリヴァイを抜くほどになり、『世界最強の戦士』などと名づけられた。

リヴァイが推察するに、彼女は感情を殺すことを覚えたのだろう。けれどあくまでも壁外調査中のみである。壁内に戻ってからは、以前のままの明るい彼女に変わりない。絶妙なバランスだが、最もリヴァイが驚いたのは、そこに危うさが存在し得なかったことだ。
そして彼女の強靭さを理解したリヴァイが調査兵団前団長キースから、彼女を自分直属の部下につけると言い渡された日の、その異常な機嫌の良さは、今でも兵団の中で語り継がれている。


「リヴァイ、いる?」


控えめなノックのあとにメゾソプラノが覗く。
扉から顔を出した青色は、澄んだ色をして久しい。
肩までの金髪は、差し込む少しの太陽光にすら煌いていた。

「ああ、なんだ」

出会ったころと比べると、幾分か声音が柔らかくなったものだとリヴァイ自身自覚している。

「や、今日晴れてるし、リヴァイの仕事が済んでたら対人格闘の手合わせをお願いしようかなー……って思ったんだけど……」

言外に『まだ仕事が終わっていないなら遠慮する』意志を匂わせるアンジュに、リヴァイは半ば無意識でこう返していた。

「仕事はちょうど終わったところだ」

実際は昼を過ぎてようやく今日のノルマの半分強が片付いた程度なので、まだまだ仕事は残っている。

「そっか、よかった!」

しかし自分の言葉一つで、ころころと表情を変えるアンジュを見るのがどうしてもやめられない。今もこうして、おかしいくらいにアンジュの表情が明るくなった。美しい碧眼など、みるみるその輝きを増した。思わず口元が緩みそうになるのに耐えるため、眉間の皺を増やすと、アンジュがそれに気づいてくすくすと笑った。

上司と部下の関係ではない別の意味でだが、案外従順なのはむしろ、
――と内心リヴァイは言いかけ、やめる。
代わりにリヴァイは愛しい恋人の望みを叶えてやるために、椅子から腰を上げたのだった。


( 従順なる金色少女の作り方 )


▼ こちらも気持ちリヴァイさん視点。
  ……しかし兵長、甘すぎます(色んな意味で)
  2013/05/05(2013/07/14up)
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